リスクコミュニケーションのための化学物質ファクトシート
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作成年: 2012年

りん酸トリトリル

別   名 りん酸トリクレジル、トリクレシルホスフェート、トリトリルホスフェート、TCP
管理番号 460
PRTR政令番号 1-513(化管法施行令(2021年10月20日公布)の政令番号)
C A S 番 号 1330-78-5
構 造 式 りん酸トリトリル構造式
  • りん酸トリトリルは、合成樹脂の可塑剤のほか、難燃剤、ガソリン添加剤や潤滑油添加剤として使われています。
  • 2010年度のPRTRデータでは、環境中への排出量は約0.21トンでした。すべてが事業所から排出されたもので、すべて大気中へ排出されました。

■用途

 りん酸トリトリルは、常温で無色透明の液体で、水に溶けにくい物質です。原料とするクレゾールo-、m-、p-体)の組成に応じて、o-体(CAS番号:78-30-8)、m-体(CAS番号:563-04-2)、p-体(CAS番号:78-32-0)など10種類の異性体があり、CAS番号1330-78-5はこれらの混合体を指します。わが国では、1971年からo-クレゾールを含まない合成クレゾールを原料としてりん酸トリトリルが製造されています。
 りん酸トリトリルは、塩化ビニル樹脂など各種合成樹脂可塑剤、合成ゴム用軟化剤・可塑剤、セルロース用可塑剤、難燃剤、不燃性作動液、ガソリン添加剤や潤滑油添加剤として使われています。

■排出・移動

 2010年度のPRTRデータによれば、わが国では1年間に約0.21トンが環境中へ排出されたと見積もられています。すべてがプラスチック製品製造業や非鉄金属製造業などの事業所から排出されたもので、すべて大気中へ排出されました。この他、ゴム製品製造業や機械修理業などの事業所から廃棄物として約33トン、下水道へ約0.07トンが移動されました。

■環境中での動き

 大気中へ排出されたりん酸トリトリルは、化学反応によって分解されますが、異性体によって分解速度が異なり、o-体とp-体は4.7〜47時間で、m-体は2.2〜22時間で、半分の濃度になると計算されています1)。環境水中での動きについては報告がありませんが、化審法の分解度試験では、微生物分解はされやすいとされています1)

■健康影響

毒 性 ラットに体重1 kg当たり1日4 mgのりん酸トリトリルを2年間、餌に混ぜて与えた実験では、血清中のコリンエステラーゼ(生体内に存在する酵素の一種)の活性の低下が認められました1)。また、平均8.9年間にわたってりん酸トリトリルの製造に従事した作業者に対する調査で、空気中の濃度3.4 mg/m3では慢性的な健康影響がなかったことが報告されています1)

体内への吸収と排出 人がりん酸トリトリルを体内に取り込む可能性があるのは、食物や飲み水、呼吸によると考えられます。体内に取り込まれた場合は、異性体によって排せつパターンが異なります1)。ラットの実験によると、o-体では24時間で約70%が尿に含まれて、約20%がふんに含まれて排せつされましたが、m-体では主にふんに含まれて排せつされ、その割合も投与量が多いほど高くなったと報告されています1)。また、p-体では低投与量では主に尿に含まれて、高投与量では主にふんに含まれて排せつされたと報告されています1)

影 響 食物や飲み水を通じて口から取り込んだ場合について、環境省の「化学物質の環境リスク初期評価」では、血清コリンエステラーゼ活性の低下が認められたラットの実験結果に基づいて、無毒性量等を体重1 kg当たり1日0.4 mgとしています1)。飲み水の測定データがないため、地下水の測定データ(検出下限値0.00003 mg/L未満)を用い、食物の測定データ(検出下限値0.005 mg/kg未満)とあわせて計算すると、人が口からりん酸トリトリルを取り込む量は体重1 kg当たり1日0.0002 mg以下と予測されます1)。これは上記の無毒性量等よりも十分に低く、食物や飲み水を通じて口から取り込むことによる人の健康への影響は小さいと考えられます。
 また、呼吸によって取り込んだ場合について、この環境リスク初期評価では、慢性的な健康影響がなかった作業者の調査に基づいて、無毒性量等を0.7 mg/m3としています1)。これまでの測定における大気中の最大濃度は0.0000026 mg/m3であり、室内空気についても一部地域の測定データでは最大で0.0000092 mg/m3程度とされ1)、この無毒性量等よりも十分に低く、呼吸に伴う人の健康への影響は小さいと考えられます。

■生態影響

 環境省の「化学物質の環境リスク初期評価」では、魚類の死亡を根拠として、水生生物に対するPNEC(予測無影響濃度)を0.00015 mg/Lとしています1)。河川や海などの水中濃度は、このPNECを下まわってはいるものの十分に低いとは言えないため、情報収集に努める必要があるとしています1)

性 状 無色透明の液体   水に溶けにくい
生産量2)
(2010年)
国内生産量:約43,000トン(リン酸系可塑剤)
排出・移動量
(2010年度
PRTRデータ)
環境排出量:約0.21トン 排出源の内訳[推計値](%) 排出先の内訳[推計値](%)
事業所(届出) 99 大気 100
事業所(届出外) 1 公共用水域
非対象業種 土壌
移動体 埋立
家庭 (届出以外の排出量も含む)
事業所(届出)における排出量:約0.21トン 業種別構成比(上位5業種、%)
プラスチック製品製造業 51
非鉄金属製造業 44
ゴム製品製造業 5
繊維工業 0
事業所(届出)における移動量:約33トン 移動先の内訳(%)
廃棄物への移動 100 下水道への移動 0
業種別構成比(上位5業種、%)
ゴム製品製造業 24
機械修理業 21
繊維工業 17
その他の製造業 11
輸送用機械器具製造業 7
PRTR対象
選定理由
経口慢性毒性生態毒性(魚類)
環境データ

大気

  • 化学物質環境実態調査:検出数8/46検体,最大濃度0.0000026 mg/m3;[1998年度,環境省] 3)

公共用水域

  • 要調査項目存在状況調査:検出数1/40地点,最大濃度0.00005 mg/L;[2002年度,環境省] 4)

地下水

  • 要調査項目存在状況調査:検出数0/10地点(検出下限値0.00003 mg/L);[2002年度,環境省] 4)

底質

  • 要調査項目存在状況調査:検出数10/24地点,最大濃度0.072 mg/kg;[2002年度,環境省] 5)

生物(魚)

  • 化学物質環境実態調査:検出数2/75検体,最大濃度0.082 mg/kg;[1993年度,環境省] 3)
適用法令等
  • 廃棄物処理法:特定有害産業廃棄物,金属等を含む産業廃棄物に係る判定基準(汚泥)1 mg/L以下
  • 海洋汚染防止法:有害液体物質Y類(オルト異性体を含むものに限る。)

注)排出・移動量の項目中、「−」は排出量がないこと、「0」は排出量はあるが少ないことを表しています。

■引用・参考文献

■用途に関する参考文献