[この文書を印刷される場合はこちら(PDF)] 作成年: 2012年 |
りん酸トリトリル
■用途 りん酸トリトリルは、常温で無色透明の液体で、水に溶けにくい物質です。原料とするクレゾール(o-、m-、p-体)の組成に応じて、o-体(CAS番号:78-30-8)、m-体(CAS番号:563-04-2)、p-体(CAS番号:78-32-0)など10種類の異性体があり、CAS番号1330-78-5はこれらの混合体を指します。わが国では、1971年からo-クレゾールを含まない合成クレゾールを原料としてりん酸トリトリルが製造されています。 ■排出・移動2010年度のPRTRデータによれば、わが国では1年間に約0.21トンが環境中へ排出されたと見積もられています。すべてがプラスチック製品製造業や非鉄金属製造業などの事業所から排出されたもので、すべて大気中へ排出されました。この他、ゴム製品製造業や機械修理業などの事業所から廃棄物として約33トン、下水道へ約0.07トンが移動されました。 ■環境中での動き大気中へ排出されたりん酸トリトリルは、化学反応によって分解されますが、異性体によって分解速度が異なり、o-体とp-体は4.7〜47時間で、m-体は2.2〜22時間で、半分の濃度になると計算されています1)。環境水中での動きについては報告がありませんが、化審法の分解度試験では、微生物分解はされやすいとされています1)。 ■健康影響毒 性 ラットに体重1 kg当たり1日4 mgのりん酸トリトリルを2年間、餌に混ぜて与えた実験では、血清中のコリンエステラーゼ(生体内に存在する酵素の一種)の活性の低下が認められました1)。また、平均8.9年間にわたってりん酸トリトリルの製造に従事した作業者に対する調査で、空気中の濃度3.4 mg/m3では慢性的な健康影響がなかったことが報告されています1)。 体内への吸収と排出 人がりん酸トリトリルを体内に取り込む可能性があるのは、食物や飲み水、呼吸によると考えられます。体内に取り込まれた場合は、異性体によって排せつパターンが異なります1)。ラットの実験によると、o-体では24時間で約70%が尿に含まれて、約20%がふんに含まれて排せつされましたが、m-体では主にふんに含まれて排せつされ、その割合も投与量が多いほど高くなったと報告されています1)。また、p-体では低投与量では主に尿に含まれて、高投与量では主にふんに含まれて排せつされたと報告されています1)。 影 響 食物や飲み水を通じて口から取り込んだ場合について、環境省の「化学物質の環境リスク初期評価」では、血清コリンエステラーゼ活性の低下が認められたラットの実験結果に基づいて、無毒性量等を体重1 kg当たり1日0.4 mgとしています1)。飲み水の測定データがないため、地下水の測定データ(検出下限値0.00003 mg/L未満)を用い、食物の測定データ(検出下限値0.005 mg/kg未満)とあわせて計算すると、人が口からりん酸トリトリルを取り込む量は体重1 kg当たり1日0.0002 mg以下と予測されます1)。これは上記の無毒性量等よりも十分に低く、食物や飲み水を通じて口から取り込むことによる人の健康への影響は小さいと考えられます。 ■生態影響環境省の「化学物質の環境リスク初期評価」では、魚類の死亡を根拠として、水生生物に対するPNEC(予測無影響濃度)を0.00015 mg/Lとしています1)。河川や海などの水中濃度は、このPNECを下まわってはいるものの十分に低いとは言えないため、情報収集に努める必要があるとしています1)。
注)排出・移動量の項目中、「−」は排出量がないこと、「0」は排出量はあるが少ないことを表しています。 ■引用・参考文献
■用途に関する参考文献
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