リスクコミュニケーションのための化学物質ファクトシート
この文書を印刷される場合はこちら(PDF)
作成年: 2012年

α-メチルスチレン

別   名 2-フェニルプロペン、イソプロペニルベンゼン
管理番号 436
PRTR政令番号 1-482(化管法施行令(2021年10月20日公布)の政令番号)
C A S 番 号 98-83-9
構 造 式 α-メチルスチレン構造式
  • α-メチルスチレンは、合成樹脂の耐熱性や耐衝撃性を高める樹脂改質剤の原料として使われています。
  • 2010年度のPRTRデータでは、環境中への排出量は約27トンでした。すべてが事業所から排出されたもので、ほとんどが大気中へ排出されました。

■用途

 α-メチルスチレンは、常温で無色透明の液体で、揮発性物質です。ABS樹脂を製造する際に、耐熱性や耐衝撃性を高めたり、紫外線による分解を防ぐための樹脂改質剤の原料として使われています。ポリエステル樹脂やアルキド樹脂に対しても、同様な目的で使われています。

■排出・移動

 2010年度のPRTRデータによれば、わが国では1年間に約27トンが環境中へ排出されたと見積もられています。すべてが化学工業などの事業所から排出されたもので、ほとんどが大気中へ排出されました。この他、化学工業やプラスチック製品製造業などの事業所から廃棄物として約36トン、下水道へ約0.006トンが移動されました。

■環境中での動き

 大気中へ排出されたα-メチルスチレンは、化学反応によって分解され、半日以内で半分の濃度になると計算されています1)化審法の分解度試験では、微生物分解はされにくいとされ、環境水中へ排出された場合は、一部は水中の粒子などに吸着して水底の泥に沈みますが、多くは大気中へ揮発することによって失われると考えられます2)

■健康影響

毒 性 α-メチルスチレンは、マウスの細胞を使った染色体の異常を調べる試験で陽性を示したと報告されています3)。なお、国際がん研究機関(IARC)はα-メチルスチレンの発がん性を評価していません。
 マウスにα-メチルスチレンを含む空気を13週間吸入させた実験では、 嗅上皮(きゅうじょうひ)(鼻の奥にある臭いを感知する粘膜)の萎縮や組織細胞の異常などが認められ1)2)、この実験結果から求められる呼吸によって取り込んだ場合のLOAEL(最小毒性量)は368 mg/m3でした2)
 また、ラットの交配前から雄は43日間、雌は妊娠、分娩を経て哺育(ほいく )3日目まで、α-メチルスチレンを口から与えた実験では、肝臓及び腎臓重量の増加などが認められ1)2)、この実験結果から求められる口から取り込んだ場合のNOAEL(無毒性量)は、体重1 kg当たり1日40 mgでした2)

体内への吸収と排出 人がα-メチルスチレンを体内に取り込む可能性があるのは、呼吸などによると考えられます。体内に取り込まれた場合は、ラットの実験では、代謝物に変化し、主に尿に含まれて排せつされたと報告されています1)

影 響 呼吸によってα-メチルスチレンを取り込んだ場合について、環境省の「化学物質の環境リスク初期評価」では、嗅上皮(きゅうじょうひ)の萎縮などが認められたマウスの実験結果に基づいて、無毒性量等を0.64 mg/m3としています1)。大気中の最大濃度は0.00011 mg/m3であり、この無毒性量等よりも十分に低く、呼吸に伴う人の健康への影響は小さいと考えられます。
 食物や飲み水を通じて口から取り込んだ場合について、この環境リスク初期評価では、肝臓及び腎臓重量の増加などが認められたラットの実験結果に基づいて、無毒性量等を体重1 kg当たり1日4 mgとしています1)。α-メチルスチレンの飲料水中濃度のデータが得られていませんが、河川の測定データから計算すると、人が飲み水から取り込む量は最大で体重1 kg当たり1日0.0000004 mgと予測されます1)。これは上記の無毒性量等よりも十分に低く、また食物から体内に取り込まれる量は少ないと推定されていることから、食物や飲み水を通じて口から取り込むことによる人の健康への影響も小さいと考えられます1)
 なお、(独)製品評価技術基盤機構及び(財)化学物質評価研究機構の「化学物質の初期リスク評価書」では、呼吸から取り込んだ場合について、環境省と同じマウスの実験におけるLOAELと大気中濃度の推計値を用いて、人の健康影響を評価しており、現時点では人の健康へ悪影響を及ぼすことはないと判断しています2)。また、口から取り込んだ場合についても、環境省と同じラットの実験におけるNOAELと河川水中濃度の測定データ(不検出であり、検出下限値の1/2の値を用いた)及び魚体内濃度の推計値を用いて評価し、この場合も、現時点では人の健康へ悪影響を及ぼすことはないと判断しています2)

■生態影響

 環境省の「化学物質の環境リスク初期評価」では、藻類の生長阻害を根拠として水生生物に対するPNEC(予測無影響濃度)を0.003 mg/Lとしています1)。これまで得られた河川や海域の水中濃度はこのPNECよりも十分に低いため、この結果に基づけば水生生物への影響は小さいと考えられます。なお、α-メチルスチレンは甲殻類に対する有害性からもPRTR制度の対象物質に選定されていますが、上記のPNECは甲殻類の有害性から導くPNECより低い値1)で、より安全側に立った評価値として設定されています。
 (独)製品評価技術基盤機構及び(財)化学物質評価研究機構の「化学物質の初期リスク評価書」でも、藻類の生長阻害を指標として、河川水中濃度の測定データ(不検出であり、検出下限値の1/2の値を用いた)を用いて水生生物に対する影響について評価を行っており、現時点では環境中の水生生物へ悪影響を及ぼすことはないと判断しています2)

性 状 無色透明の液体   揮発性物質
生産量4)
(2010年)
国内生産量:約50,000トン
排出・移動量
(2010年度
PRTRデータ)
環境排出量:約27トン 排出源の内訳[推計値](%) 排出先の内訳[推計値](%)
事業所(届出) 100 大気 100
事業所(届出外) 0 公共用水域 0
非対象業種 土壌
移動体 埋立
家庭 (届出以外の排出量も含む)
事業所(届出)における排出量:約27トン 業種別構成比(上位5業種、%)
化学工業 100
熱供給業 0
電気業 0
事業所(届出)における移動量:約36トン 移動先の内訳(%)
廃棄物への移動 100 下水道への移動 0
業種別構成比(上位5業種、%)
化学工業 86
プラスチック製品製造業 14
電気業 0
食料品製造業 0
PRTR対象
選定理由
変異原性生態毒性(甲殻類)
環境データ

大気

  • 化学物質環境実態調査:検出数20/26検体,最大濃度0.00011 mg/m3;[2000年度,環境省]5)

公共用水域

  • 化学物質環境実態調査:検出数0/12検体(検出下限値0.000009 mg/L);[2005年度,環境省]5)
  • 要調査項目存在状況調査:検出数0/50地点(検出下限値0.00001 mg/L);[2001年度,環境省]6)

底質

  • 化学物質環境実態調査:検出数0/15検体(検出下限値0.0007 mg/kg);[2006年度,環境省] 5)
適用法令等

注)排出・移動量の項目中、「−」は排出量がないこと、「0」は排出量はあるが少ないことを表しています。

■引用・参考文献

■用途に関する参考文献