リスクコミュニケーションのための化学物質ファクトシート
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作成年: 2012年

N‐メチルカルバミン酸2‐sec‐ブチルフェニル

別   名 フェノブカルブ、BPMC、2-sec-ブチルフェニル-N-メチルカルバメート
管理番号 428
PRTR政令番号 1-477(化管法施行令(2021年10月20日公布)の政令番号)
C A S 番 号 3766-81-2
構 造 式 N‐メチルカルバミン酸2‐sec‐ブチルフェニル構造式
  • N-メチルカルバミン酸2-sec-ブチルフェニルは、フェノブカルブ、BPMCなどとも呼ばれ、畑地や水田などの殺虫剤として使われている農薬の有効成分(原体)です。
  • 2010年度のPRTRデータでは、環境中への排出量は約100トンでした。ほとんどが農薬の使用に伴って排出されたもので、すべて土壌へ排出されました。

■用途

 N-メチルカルバミン酸2-sec-ブチルフェニル(以下「フェノブカルブ」と表記します)は、常温で無色の固体で、殺虫剤として使われている農薬の有効成分(原体)です。通常、乳剤、粉剤や粒剤として製剤化されています。
 フェノブカルブは、昆虫体内のコリンエステラーゼという酵素の活性を阻害することによって殺虫効果をあらわします。イネや野菜につくウンカ、ヨコバイ類などの虫を駆除するために、水田や畑などで広く使われています。また、シロアリ駆除剤としても使われているほか、家庭で使われるムカデやヤスデなどの不快害虫駆除用の殺虫剤にも、フェノブカルブを含むものがあります。

■排出・移動

 2010年度のPRTRデータによれば、わが国では1年間に約100トンが環境中へ排出されたと見積もられています。ほとんどが農薬の使用に伴って排出されたもので、すべて土壌へ排出されました。家庭からも、殺虫剤の使用に伴って排出されました。この他、化学工業の事業所から廃棄物として約0.36トンが移動されました。

■環境中での動き

 土壌へ排出されたフェノブカルブは、畑地の土壌では7〜14日、水田の土壌では56〜114日で半分の濃度になるとされています1)。水中では分解されにくいとされています2)。大気中では主に化学反応によって分解され、約半日で半分の濃度になると計算されています2)

■健康影響

毒 性 ラットにフェノブカルブを2年間、300 ppmの濃度で餌に混ぜて与えた実験では、白血球の減少が認められましたが、100 ppm(雄で体重1 kg当たり1日4.1 mg、雌で体重1 kg当たり1日4.9 mg)以下では異常は認められませんでした3)4)。この実験結果に基づいて、厚生労働省ではフェノブカルブの室内空気中濃度の指針値を0.033 mg/m3(0.0038 ppm)と設定しています3)
 わが国ではADI(一日許容摂取量)を体重1 kg当たり1日0.012 mgとして、これに基づいて水道水質管理目標値水質要監視項目の指針値が設定されています4)5)

体内への吸収と排出 人がフェノブカルブを体内に取り込む可能性があるのは、食物や飲み水、呼吸によると考えられます。現在のところ、体内へのフェノブカルブの吸収と排出に関する知見はありません。

影 響 厚生労働省が行っている「食品中の残留農薬の一日摂取量調査結果」によると、フェノブカルブの平均1日摂取量は0.0048〜0.02246 mgと推計されています6)。これは、体重50 kg換算のADIの0.8〜3.74%に相当します6)。水道水、河川や地下水から水道水質管理目標値や水質要監視項目指針値を超える濃度のフェノブカルブは検出されておらず、食物や飲み水を通じて口から取り込むことによる人の健康への影響は小さいと考えられます。
 また、これまでの測定では大気中からフェノブカルブは検出されていますが、その濃度は室内空気中濃度の指針値より十分低いものでした。住宅におけるフェノブカルブの室内空気中濃度に関する情報は現在のところ得られていません。

■生態影響

 環境省の「化学物質の環境リスク初期評価」では、ミジンコの繁殖阻害を根拠として水生生物に対するPNEC(予測無影響濃度)を0.0000030 mg/Lとしています2)。この環境リスク初期評価が行われた時点では、 検出下限値がこのPNECよりも高く、水生生物への影響は評価できていませんでした2)。最近の測定では、このPNECを超える濃度のフェノブカルブが公共用水域から検出されています。

性 状 無色の固体
生産量7)
(2010年)
国内生産量:約35トン(原体)
輸 入 量:約88 トン(原体)
輸 出 量:約56トン(原体)
排出・移動量
(2010年度
PRTRデータ)
環境排出量:約100トン 排出源の内訳[推計値](%) 排出先の内訳[推計値](%)
事業所(届出) 大気
事業所(届出外) 0 公共用水域
非対象業種 92 土壌 100
移動体 埋立
家庭 8 (届出以外の排出量も含む)
事業所(届出)における排出量:−トン 業種別構成比(上位5業種、%)
事業所(届出)における移動量:約0.36トン 移動先の内訳(%)
廃棄物への移動 100 下水道への移動
業種別構成比(上位5業種、%)
化学工業 100
PRTR対象
選定理由
経口慢性毒性生態毒性(甲殻類)
環境データ

大気

  • 化学物質環境実態調査:検出数4/72検体,最大濃度0.000048 mg/m3[1988年度,環境省] 8)

水道水

  • 原水・浄水水質試験:水道水質管理目標値超過数;原水0/1125地点,浄水0/1059地点;[2009年度,日本水道協会]9) 10)

公共用水域

  • 公共用水域水質測定(要監視項目):指針値超過数0/894地点(検出下限値0.0001〜0.004 mg/L)2);[2010年度,環境省]11)
  • 化学物質環境実態調査:検出数30/30検体,最大濃度0.0000051 mg/L;[2006年度,環境省] 8)

地下水

  • 地下水質測定(要監視項目):指針値超過数0/281本;[2009年度,環境省]12)

底質

  • 化学物質環境実態調査:検出数0/69検体(検出下限値0.0103 mg/kg);[1988年度,環境省] 8)
適用法令等
  • 室内空気汚染に係るガイドライン:室内空気濃度指針値0.033 mg/m3(0.0038 ppm)
  • 水道法:水道水質管理目標値0.03 mg/L以下(農薬類;フェノブカルブ)
  • 水質要監視項目指針値:0.03 mg/L以下
  • 日本産業衛生学会報告:作業環境許容濃度5 mg/m3
  • 食品衛生法:残留農薬基準 例えば,米(玄米)1.0 ppm,だいこん類の根0.3 ppm
  • 農薬取締法:登録農薬
  • 農薬取締法:水質汚濁に係る農薬登録保留基準値(0.2 mg/L)

注)排出・移動量の項目中、「−」は排出量がないこと、「0」は排出量はあるが少ないことを表しています。
※本物質の生産量は2010年農業年度(2009年10月〜2010年9月)のものです。

■引用・参考文献

■用途に関する参考文献

■適用作物に関する情報