リスクコミュニケーションのための化学物質ファクトシート
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作成年: 2012年

ホルムアルデヒド

別   名 メタナール、メチルアルデヒド、オキソメタン、オキシメチレン、メチレンオキシド
管理番号 411
PRTR政令番号 特定1-464(化管法施行令(2021年10月20日公布)の政令番号)
C A S 番 号 50-00-0
構 造 式 ホルムアルデヒド構造式
  • ホルムアルデヒドは、多くは合成樹脂の原料として使われています。
  • 2010年度のPRTRデータでは、環境中への排出量は約8,000トンでした。主に自動車などの排気ガスに含まれて排出されたもので、ほとんどが大気中へ排出されました。

■用途

 ホルムアルデヒドは、水に溶けやすく、常温では無色透明の気体です。森林火災のような有機物の燃焼によって放出されるほか、光化学反応などによっても生成される物質です。タンパク質と結びつきやすく、反応したタンパク質は固まって機能を失います。生物標本などに使用されるホルマリンはホルムアルデヒドの水溶液ですが、この性質を利用して生物標本の腐敗を防いでいます。また、フェノールやメラミン、尿素などの物質とも容易に結合します。
 この性質を利用して、ホルムアルデヒドの多くは、フェノール樹脂(電話機などさまざまなプラスチック製品に利用)、メラミン樹脂(食器や電気部品、耐水塗料などに利用)、尿素系樹脂(合板の接着剤、ボタンやおもちゃなどに利用)、ポリアセタール樹脂(電気・電子部品、自動車部品に利用)といった合成樹脂の原料として使われています。
 この他、ウレタン樹脂の原料となる化学物質や塗料・インキなどの原料に使われたり、ホルマリンとして、消毒薬や防腐剤などにも使われています。また、衣類には、防しわや防縮、風合いを出すために、ホルムアルデヒドで繊維を処理したり、ホルムアルデヒドを原料とした樹脂によって加工しているものがあります。
 なお、ホルムアルデヒドは自動車の排気ガスやたばこの煙にも含まれています。

■排出・移動

 2010年度のPRTRデータによれば、わが国では1年間に約8,000トンが環境中へ排出されたと見積もられています。主に大型自動車やディーゼル機関車などの排気ガスに含まれて排出されたもので、ほとんどが大気中へ排出されました。これは、自動車などの排気ガスの中に含まれる炭化水素から発生すると考えられ、特にディーゼル車からはホルムアルデヒドの排出量が多いとされています1)。また、家庭からもわずかですが排出されました。ほとんどがたばこの煙に含まれて排出されたものですが、接着剤や防腐剤を使用する際にも放出されています。この他、化学工業や電気機械器具製造業などの事業所から廃棄物として約630トン、下水道へ約80トンが移動されました。
 ホルムアルデヒドは、大気汚染防止法で有害大気汚染物質優先取組物質に指定され、事業者による自主的な排出削減が進められています。この自主管理に参加している事業者から大気中へ排出されたホルムアルデヒドの量は、1999年度は1995年度に比べて57%削減され、2003年度には1999年度に比べて29%削減されています2)

■環境中での動き

 大気中へ排出されたホルムアルデヒドは、化学反応によって分解され、20〜40時間で半分の濃度になると計算されています3)。この分解によってギ酸が生成され3)、降雨などによって地表に降下すると考えられます。水中に入った場合は、主に微生物分解されると考えられます3)

■健康影響

毒 性 高濃度のホルムアルデヒドは、眼や鼻、呼吸器などに刺激性を与えることが報告されています3)。また、シックハウス症候群との関連性が疑われていることから、厚生労働省ではホルムアルデヒドの室内空気濃度の指針値を0.1 mg/m3(0.08 ppm)と設定しています4)。これは人がホルムアルデヒドを吸い込んだ際の鼻やのどの粘膜への刺激を根拠としています4)。また、高濃度のホルムアルデヒドは皮膚炎の原因となることもあり、「有害物質を含有する家庭用品に関する法律」によって、乳幼児用の衣類や繊維製品などに含まれるホルムアルデヒドの量が規制されています。
 ホルムアルデヒドは、変異原性の試験において陽性を示したと報告されています3)。発がん性については、マウスとラットに17.75〜18.38 mg/m3の濃度のホルムアルデヒドを含む空気を長期間取り込ませた実験では、鼻腔の扁平上皮がんの発生が報告されています3)。また、人の鼻咽頭がんに対しても十分な科学的根拠が得られたことなどから、国際がん研究機関(IARC)は、ホルムアルデヒドをグル−プ1 (人に対して発がん性がある) に分類しています3)
 ラットにホルムアルデヒドを2年間、飲み水に混ぜて与えた実験では、摂餌量や飲水量の減少、体重減少、胃の粘膜壁の肥厚などが認められ、この実験結果から求められる口から取り込んだ場合のNOAEL(無毒性量)は、体重1 kg当たり1日15 mgでした5)6)。この実験結果から、TDI(耐容一日摂取量)は体重1 kg当たり1日0.015 mgと算出され、これに基づいて水道水質基準が設定されています5)。また、同じ実験結果から、2008年に食品安全委員会も、ホルムアルデヒドのTDIを体重1 kg当たり1日0.015 mgと評価しています6)

体内への吸収と排出 人がホルムアルデヒドを体内に取り込む可能性があるのは、呼吸や飲み水によると考えられます。なかでも、室内空気からの取り込み量が最も多いと推定されています7)。体内に取り込まれた場合は、速やかにギ酸などに代謝され、ラットの実験では主に呼気とともに吐き出されるほか、尿やふんに含まれて排せつされたと報告されています3)

影 響 国土交通省による新築1年以内の住宅を対象とした実態調査によると、室内空気濃度の指針値を超えた住宅の割合は2000年度には28.7%ありましたが、年々減少しており、2005年度には2%以下となっています8)。建材だけでなく、室内に燃焼ガスを出すタイプの暖房器具や喫煙によっても、ホルムアルデヒドは発生する可能性があります。屋外大気の場合は、大気中濃度は室内空気濃度の指針値を下まわっています。
 水道水から、水道水質基準値を超える濃度のホルムアルデヒドは検出されていません。

■生態影響

 これまでの測定では、河川などから水生生物保全の観点から定めた要監視項目指針値を超える濃度のホルムアルデヒドは検出されていません。

性 状 無色透明の気体   水に溶けやすい
生産量9)
(2010年)
国内生産量:約1,100,000トン
輸 入 量:約16トン
輸 出 量:約140トン
排出・移動量
(2010年度
PRTRデータ)
環境排出量:約8,000トン 排出源の内訳[推計値](%) 排出先の内訳[推計値](%)
事業所(届出) 5 大気 96
事業所(届出外) 8 公共用水域 4
非対象業種 2 土壌
移動体 85 埋立
家庭 1 (届出以外の排出量も含む)
事業所(届出)における排出量:約380トン 業種別構成比(上位5業種、%)
輸送用機械器具製造業 23
化学工業 21
木材・木製品製造業 14
窯業・土石製品製造業 8
プラスチック製品製造業 8
事業所(届出)における移動量:約710トン 移動先の内訳(%)
廃棄物への移動 89 下水道への移動 11
業種別構成比(上位5業種、%)
化学工業 45
電気機械器具製造業 36
プラスチック製品製造業 8
窯業・土石製品製造業 3
繊維工業 2
PRTR対象
選定理由
発がん性,変異原性,吸入慢性毒性感作性生態毒性(魚類)
環境データ

大気

  • 有害大気汚染物質モニタリング調査:平均濃度0.0027 mg/m3,最大濃度 0.0086 mg/m3;[2009年度,環境省]10)

室内空気

  • 室内空気中の化学物質濃度の実態調査:指針値超過数;18/1181件;[2005年度,国土交通省]8)

水道水

  • 原水・浄水水質試験:水道水質基準超過数;原水0/277地点,浄水0/5804地点;[2009年度,日本水道協会]11)12)

公共用水域

  • 要調査項目存在状況調査:検出数20/57地点,最大濃度0.027 mg/L;[2008年度,環境省]13)

地下水

  • 要調査項目存在状況調査:検出数0/5地点(定量下限値0.001 mg/L);[2008年度,環境省]13)

生物(魚)

  • 化学物質環境実態調査:検出数6/6検体,最大濃度4.2 mg/kg;[2004年度,環境省]14)
適用法令等
  • 化学物質の審査及び製造等の規制に関する法律(化審法):優先評価化学物質
  • 大気汚染防止法:特定物質,有害大気汚染物質(優先取組物質),揮発性有機化合物(VOC)として測定される可能性がある物質
  • 室内空気汚染に係るガイドライン:室内空気濃度指針値 0.1 mg/m3 (0.08 ppm)
  • 建築基準法:規制対象物質(内装仕上げの制限,換気設備の義務付けなど)
  • 住宅の品質確保の促進等に関する法律:住宅性能表示制度における室内空気中濃度の特定測定物質
  • 水道法:水道水質基準値 0.08 mg/L以下
  • 水質要監視項目指針値(水生生物の保全):
     河川及び湖沼(生物A;イワナ・サケマス域)1 mg/L
     河川及び湖沼(生物特A;イワナ・サケマス特別域)1 mg/L
     河川及び湖沼(生物B;コイ・フナ域)1 mg/L
     河川及び湖沼(生物特B;コイ・フナ特別域)1 mg/L
     海域(一般海域)0.3 mg/L
     海域(特別域)0.03 mg/L
  • 有害物質を含有する家庭用品の規制に関する法律:製品中の遊離ホルムアルデヒド残留量は乳幼児用(生後24ヵ月以下)では残留しないこと, 肌に直接触れるもの(下着,寝衣,手袋,靴下,足袋)では0.075 mg/g以下のこと
  • 海洋汚染防止法:有害液体物質Y類
  • 労働安全衛生法:管理濃度0.1 ppm(25℃換算で0.12 mg/m3

注)排出・移動量の項目中、「−」は排出量がないこと、「0」は排出量はあるが少ないことを表しています。

■引用・参考文献

■用途に関する参考文献