リスクコミュニケーションのための化学物質ファクトシート
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作成年: 2012年

n-ヘキサン

別   名 ヘキサン、ノルマルヘキサン、ジプロピル
管理番号 392
PRTR政令番号 1-436(化管法施行令(2021年10月20日公布)の政令番号)
C A S 番 号 110-54-3
構 造 式 n-ヘキサン構造式
  • n-ヘキサンは、溶剤として用いられ、合成樹脂の重合溶剤、接着剤、塗料やインキなどの溶剤として使われています。
  • 2010年度のPRTRデータでは、環境中への排出量は約16,000トンでした。ほとんどが事業所から排出されたもので、ほとんどが大気中へ排出されました。

■用途

 n-ヘキサンは、常温で無色透明の液体で、水に溶けにくい揮発性物質です。石油や天然ガスの一成分であり、燃料やガソリンなどに含まれています。n-ヘキサンは、溶剤として使われ、高密度ポリエチレンやポリプロピレンの重合溶剤、接着剤、塗料やインキなどの溶剤として使われています。また、食用油の抽出溶剤として使われますが、食品衛生法で「最終食品の完成前に除去すること」とされています。

■排出・移動

 2010年度のPRTRデータによれば、わが国では1年間に約16,000トンが環境中へ排出されたと見積もられています。ほとんどが化学工業や食料品製造業などの事業所から排出されたもので、ほとんどが大気中へ排出されました。この他、化学工業などの事業所から廃棄物として約5,200トン、下水道へ約7.5トンが移動されました。

■環境中での動き

 水中に排出されたn-ヘキサンは、環境水中での動きについては報告がありませんが、化審法の分解度試験では、微生物分解はされやすいとされています1)。大気中へ排出された場合は、化学反応によって分解され、3日間で半分の濃度になると計算されています2)

■健康影響

毒 性 雌のラットに3,525 mg/m3の濃度のn-ヘキサンを含む空気を妊娠6日〜19日までの期間吸入させた実験では、胎児の体重低下が認められました1)。また、作業環境における疫学調査では、平均204 mg/m3の濃度のn-ヘキサンを14人の作業者が1〜12年間(平均6.2年間)、空気中から吸入した結果、頭痛、四肢知覚異常、筋力低下などが報告されています1)

体内への吸収と排出 人がn-ヘキサンを体内に取り込む可能性があるのは、食物や飲み水、呼吸によると考えられます。体内に取り込まれた場合は、ほ乳動物では、大部分が代謝されないまま呼気に含まれて排せつされ、一部が代謝物に変化して呼気や尿に含まれて排せつされると報告されています3)

影 響 呼吸によってn-ヘキサンを取り込んだ場合について、環境省の「化学物質の環境リスク初期評価」では、疫学調査における人への影響に基づいて、無毒性量等を1 mg/m3としています1)。大気中濃度はこの無毒性量等を下まわっているものの十分に低いとはいえないため、情報収集に努める必要があるとしています1)。また、室内空気を呼吸によって取り込んだ場合についても、過去に測定された室内空気中の最大濃度が0.098 mg/m3であったことから、情報収集に努める必要があるとしています1)
 食物や飲み水を通じて口から取り込んだ場合について、河川からn-ヘキサンは検出されていますが、人の健康への影響を評価できる情報は現在のところ報告されていません。

■生態影響

 環境省の「化学物質の環境リスク初期評価」では、ミジンコの遊泳行動等への影響を根拠として、水生生物に対するPNEC(予測無影響濃度)を0.015 mg/Lとしています1)。これまで得られた河川や海域の水中濃度はこのPNECよりも十分に低いため、この結果に基づけば水生生物への影響は小さいと考えられます。

性 状 無色透明の液体   水に溶けにくい   揮発性物質
生産量4)
(2010年)
国内生産量:約80,000キロリットル
排出・移動量
(2010年度
PRTRデータ)
環境排出量:約16,000トン 排出源の内訳[推計値](%) 排出先の内訳[推計値](%)
事業所(届出) 81 大気 100
事業所(届出外) 18 公共用水域 0
非対象業種 1 土壌
移動体 埋立 0
家庭 0 (届出以外の排出量も含む)
事業所(届出)における排出量:約13,000トン 業種別構成比(上位5業種、%)
化学工業 43
食料品製造業 26
燃料小売業 13
石油製品・石炭製品製造業 6
石油卸売業 5
事業所(届出)における移動量:約5,200トン 移動先の内訳(%)
廃棄物への移動 100 下水道への移動 0
業種別構成比(上位5業種、%)
化学工業 89
高等教育機関 3
自然科学研究所 3
プラスチック製品製造業 2
計量証明業 1
PRTR対象
選定理由
生殖・発生毒性
環境データ

大気

  • 有害大気汚染物質モニタリング調査(一般環境大気):測定地点数34地点,検体数408検体,最小濃度0.00011 mg/m3,最大濃度0.0075 mg/m3;[2009年度,環境]5)
  • 化学物質環境実態調査:検出数52/53検体,最大濃度0.044 mg/m3;[2004年度,環境省]6)

公共用水域

  • 化学物質環境実態調査:検出数0/60検体(検出下限値0.000008 mg/L);[2004年度,環境省]6)
  • 要調査項目存在状況調査:検出数1/147地点,最大濃度0.0004 mg/L;[1999年度,環境省] 7)

地下水

  • 要調査項目存在状況調査:検出数0/23地点(検出下限値0.00001 mg/L);[1999年度,環境省]7)

底質

  • 要調査項目存在状況調査:検出数0/24地点(検出下限値0.001 mg/kg);[2002年度,環境省]8)
適用法令等
  • 化学物質の審査及び製造等の規制に関する法律(化審法):優先評価化学物質
  • 大気汚染防止法:揮発性有機化合物(VOC)として測定される可能性がある物質
  • 水質汚濁防止法:排水基準30 mg/L(ノルマルヘキサン抽出物質として)
  • 労働安全衛生法:管理濃度40 ppm(140 mg/m3
  • 海洋汚染防止法:有害液体物質Y類

注)排出・移動量の項目中、「−」は排出量がないこと、「0」は排出量はあるが少ないことを表しています。

■引用・参考文献

■用途に関する参考文献