リスクコミュニケーションのための化学物質ファクトシート
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作成年: 2012年

ヒドロキノン

別   名 ハイドロキノン、キノール、p-ヒドロキシベンゼン
管理番号 336
PRTR政令番号 1-381(化管法施行令(2021年10月20日公布)の政令番号)
C A S 番 号 123-31-9
構 造 式 ヒドロキノン構造式
  • ヒドロキノンは、写真の現像薬、染料や顔料の原料、重合防止剤などに使われています。
  • 2010年度のPRTRデータでは、環境中への排出量は約110トンでした。すべてが事業所から排出されたもので、ほとんどが河川や海などへ排出されました。

■用途

 ヒドロキノンは、水に溶けやすく、白色の固体です。19世紀後半ヒドロキノンの現像作用が発見されて以来、白黒写真の現像用として使われてきました。今日では用途が広がり、染料や顔料の原料、モノマー重合抑制剤、ゴムの酸化防止剤などに使われています。また、全体の需要量からみればわずかですが、シロアリ防除剤、医薬品や化粧品などにも使われています。
 なお、ヒドロキノンは天然にも生成され、コーヒー、赤ワイン、小麦、ブロッコリーなどに含まれています。

■排出・移動

 2010年度のPRTRデータによれば、わが国では1年間に約110トンが環境中へ排出されたと見積もられています。すべてが、中小の事業所や下水処理施設、化学工業などの事業所から排出されたもので、ほとんどが河川や海などへ排出されました。この他、化学工業などの事業所から廃棄物として約63トン、下水道へ約7.1トンが移動されました。

■環境中での動き

 環境水中での動きについては報告がありませんが、化審法の分解度試験では、微生物分解はされやすいとされています1)。この他に、光分解や酸化分解によっても失われます1)。また、ヒドロキノンは、水中の土壌粒子などにある程度吸着されると推定され、一部は沈降して水底の泥に存在すると考えられます1)
 大気中では、化学反応によって分解され、0.5〜1日で半分の濃度になると計算されています1)。大気中でも直接、光による分解も受けます1)

■健康影響

毒 性 動物細胞や動物を使ったいくつかの変異原性試験で、染色体異常などが報告されています1)。なお、発がん性については、実験動物では腺腫などの増加がみられていますが、人では発がん性との関連が報告されておらず、国際がん研究機関(IARC)はヒドロキノンをグループ3(人に対する発がん性については分類できない)に分類しています1)
 ラットに体重1 kg当たり1日50 mgのヒドロキノンを交尾前10週から授乳期までの間、口から与えた二世代試験では、親動物及び生まれた子どもに体重増加の抑制が、生まれた子どもに振戦(身体の一部あるいは全体に起こるふるえ)が認められています2)。この他、ラットにヒドロキノンを13 週間、口から与えた実験では、自発運動低下、振戦が認められ、この実験結果から求められる口から取り込んだ場合のNOAEL(無毒性量)は、体重1 kg当たり1日20 mgでした1)

体内への吸収と排出 人がヒドロキノンを体内に取り込む可能性があるのは、飲み水や食物などによると考えられます。体内に取り込まれた場合は、さまざまな組織に分布しますが、蓄積性は低いとされています1)代謝物に変化し、速やかに尿に含まれて排せつされるとされています1)

影 響 食物や飲み水を通じて口から取り込んだ場合について、環境省の「化学物質の環境リスク初期評価」では、体重増加の抑制などが認められたラットの実験結果に基づいて、無毒性量等を体重1 kg当たり1日1.5 mgとしています2)。ヒドロキノンの飲料水中濃度の測定データがないため、公共用水域淡水の測定データ(検出下限値0.00036 mg/L以下)から計算すると、人が口から取り込む量は最大で体重1 kg当たり1日0.000014 mg未満と予測されます2)。これは、上記の無毒性量等よりも十分に低く、飲み水を通じて口から取り込むことによる人の健康への影響は小さいと考えられます。なお、環境中のヒドロキノンが食物を通じて取り込まれる可能性は少ないと推定されており、これらを加えてもヒドロキノンを取り込む量は大きく変わらないと考えられています2)
 なお、(独)製品評価技術基盤機構及び(財)化学物質評価研究機構の「化学物質の初期リスク評価書」では、口から取り込んだ場合について、自発運動低下などが認められたラットの実験におけるNOAELと河川水中濃度及び魚体内濃度の推計値を用いて、人の健康影響を評価しており、現時点では人の健康へ悪影響を及ぼすことはないと判断しています1)

■生態影響

 環境省の「化学物質の環境リスク初期評価」では、ミジンコの死亡を根拠として水生生物に対するPNEC(予測無影響濃度)を0.000070 mg/Lとしています2)。この環境リスク初期評価を行った当時は、検出下限値がこのPNECより高いため、水生生物への影響は評価できていませんでしたが、最近の測定では、このPNECを超える濃度のヒドロキノンが河川から検出されています。
 なお、ヒドロキノンは、魚類に対する有害性からもPRTR制度の対象物質に選定されていますが、上記のPNECは魚類の有害性から導くPNECより低い値です。
 (独)製品評価技術基盤機構及び(財)化学物質評価研究機構の「化学物質の初期リスク評価書」では、魚類の死亡を指標として、河川水中濃度の推計値を用いて水生生物に対する影響について評価を行っており、環境中の水生生物へ悪影響を及ぼしていることが示唆されるとして、ヒドロキノンを詳細な調査や評価などを行う必要がある候補物質としています1)

性 状 白色の固体  水に溶けやすい
生産量3)
(2010年)
国内生産量:約10,000トン(推定)
輸 入 量:約360トン(ヒドロキノン(キノール)及びその塩)
排出・移動量
(2010年度
PRTRデータ)
環境排出量:約110トン 排出源の内訳[推計値](%) 排出先の内訳[推計値](%)
事業所(届出) 3 大気 2
事業所(届出外) 97 公共用水域 98
非対象業種 土壌
移動体 埋立
家庭 (届出以外の排出量も含む)
事業所(届出)における排出量:約3.0トン 業種別構成比(上位5業種、%)
化学工業 99
燃料小売業 1
事業所(届出)における移動量:約70トン 移動先の内訳(%)
廃棄物への移動 90 下水道への移動 10
業種別構成比(上位5業種、%)
化学工業 98
精密機械器具製造業 1
非鉄金属製造業 1
出版・印刷・同関連産業 0
PRTR対象
選定理由
変異原性,生態毒性(魚類)
環境データ

公共用水域

  • 化学物質環境実態調査:検出数69/69検体,最大濃度0.000075 mg/L;[2009年度,環境省]4)

底質

  • 化学物質環境実態調査:検出数36/164地点,最大濃度0.76 mg/m3;[1996年度,環境省]4)
適用法令等

注)排出・移動量の項目中、「−」は排出量がないこと、「0」は排出量はあるが少ないことを表しています。

■引用・参考文献

■用途に関する参考文献