リスクコミュニケーションのための化学物質ファクトシート
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作成年: 2012年

砒素及びその無機化合物

主な物質:砒素、酸化砒素(V)、三酸化砒素、アルシン

管理番号:332

砒素
PRTR政令番号:1-378(化管法施行令(2021年10月20日公布)の政令番号) CAS番号:7440-38-2
組成式:砒素組成式

酸化砒素(V)(別名:無水砒素)
PRTR政令番号:1-378(化管法施行令(2021年10月20日公布)の政令番号) CAS番号:1303-28-2
組成式:酸化砒素(V)組成式

三酸化砒素(別名:亜砒酸、三酸化二砒素)
PRTR政令番号:1-378(化管法施行令(2021年10月20日公布)の政令番号) CAS番号:1327-53-3
組成式:三酸化砒素組成式

アルシン(別名:水素化砒素)
PRTR政令番号:1-378(化管法施行令(2021年10月20日公布)の政令番号) CAS番号:7784-42-1
組成式:アルシン組成式

  • 砒素は、合金に添加されたり、半導体の原料として使われています。
  • 砒素の無機化合物には三酸化砒素やアルシンなどがあり、ガラスの消泡剤や脱色剤、ガス脱硫剤、木材の防腐剤、半導体の原料などに使われます。
  • 2010年度のPRTRデータでは、環境中への排出量は約1,200トンでした。すべてが事業所から排出されたもので、ほとんどが事業所内において埋立処分されました。

■用途

 砒素は、天然の硫砒鉄鉱から得られる物質で、金属と非金属の両方の性質をもつため、半金属元素と呼ばれています。砒素にはさまざまな化合物があります。化合物には炭素を含まない無機砒素化合物と、炭素を含む有機砒素化合物があります。PRTR制度の対象となっているのは砒素とその無機化合物です。
 砒素は、金属光沢のあるもろい灰色の固体で、二硫化砒素(花火の着色剤、塗料用の顔料)の原料に使われたり、硬さを高めるために合金(銅など)に添加されるなどの用途があります。また、ガリウム、インジウム、アルミニウムとの化合物は、半導体の原料としてすぐれ、半導体レーザーや赤色の発光ダイオードの原料などとして利用されています。
 代表的な無機化合物は三酸化砒素(以下「亜砒酸」と表記します)です。亜砒酸は、無味無臭の白色の固体で、ガラスの製造過程で気泡を消したり脱色するために用いられたり、ガス脱硫剤、木材の防腐剤、砒素や他の砒素化合物の原料、歯科医療で歯の神経を抜く際に使われる亜ヒ酸パスタ、シロアリ駆除などに使われています。
 アルシンは、ニンニクに似た臭いをもつ無色透明の気体で、半導体の原料ガスとして使われています。
 なお、1998年までに、すべての砒素系農薬は農薬としての登録が失効されていますが、作物残留性が認められることから、食品衛生法に基づいて残留農薬基準が定められています。

■排出・移動

 2010年度のPRTRデータによれば、わが国では1年間に約1,200トンが環境中へ排出されたと見積もられています。すべてが非鉄金属製造業などの事業所から排出されたもので、ほとんどが事業所内において埋立処分されました。この他、窯業・土石製品製造業や非鉄金属製造業などの事業所から廃棄物として約130トン、下水道へ約0.027トンが移動されました。

環境中での動き

 砒素の大気中への排出量の1/3は天然由来であると見積もられており、なかでも火山活動が主要な発生源となっています1)。大気中へ排出された砒素は、主に亜砒酸の形で粒子状物質に吸着して存在しますが、降雨などによって土壌や河川に降下すると考えられます1)
 水中へは、この他、鉱物から溶出したり、鉱泉、鉱山排水などに含まれて排出される可能性があります2)。砒素は、十分に酸素が含まれている水中や水底の泥の中では、五価(砒酸塩)の状態で存在し1)、深い湖の堆積物や地下水など、酸素の少ない状態では、主として三価(亜砒酸塩)の状態で存在します3)。また、多くの砒素化合物は、土壌に吸着しやすい性質があります1)
 なお、砒素は、地殻の表層部には重量比で0.0005%存在し、クラーク数で49番目に多い元素です。水中や土壌中、岩石、大気中に広く存在しています1)

■健康影響

毒 性 人に対する砒素化合物の急性毒性の強さは、アルシン>亜砒酸塩>砒酸塩>有機砒素化合物の順で強いと考えられています2)。急性の中毒症状としては、めまい、頭痛、四肢の脱力、全身疼痛、麻痺、呼吸困難、角化や色素沈着などの皮膚への影響、下痢を伴う胃腸障害、腎障害、末梢神経障害が報告されており3)、砒素化合物の致死量は体重1 kg当たり砒素として1.5〜500 mgと考えられています2)
 慢性の中毒症状としては、砒素に汚染された井戸水を飲んだことによって、皮膚の角質化や色素沈着、末梢性神経症、皮膚がん、末梢循環器不全などが報告されています2)4)
 亜砒酸は、マウスの骨髄細胞を使った染色体異常試験で陽性を示したと報告されています5)
 発がん性に関しては、マウスに飲料水1 L当たり0.5 mgの五価の砒素を2年間、飲み水に混ぜて与えた実験では、肺、肝臓、胃腸、皮膚に腫瘍の発生の増加が報告されています1)。また、砒素を含む農薬の製造者及び使用者、銅の精錬作業に従事した作業者に、主に三価の砒素による肺がんが報告されています4)国際がん研究機関(IARC)は砒素及び砒素化合物をグループ1(人に対して発がん性がある)に分類しています。
 国連食糧農業機関(FAO)と世界保健機関(WHO)の合同食品添加物専門家会議(JECFA)では、さまざまな疫学調査や動物実験を総合的に判断して、砒素のPTWI(暫定耐容週間摂取量)を体重1 kg当たり1週0.015 mg(体重1 kg当たり1日0.0021 mgに相当)としていました2)6)7)。これに基づいてわが国の水道水質基準水質環境基準は設定されています2)6)。なお、JECFAは2010年に、BMDL05を体重1 kg当たり1日0.002〜0.007 mgと算出し、従来のPTWIはもはや適切ではないとして取り下げる決定をしました8) 9)。JECFAではいまのところ新たなPTWIを示していません。わが国の食品安全委員会では現在、砒素のリスク評価について検討を行っています10)
 また、砒素及びその無機化合物について、米国の銅精錬所において呼吸によって取り込むことによる肺がんの増加が報告されたことに基づき、「生涯にわたってその値の砒素及びその無機化合物を取り込んだ場合に、取り込まなかった場合と比べて10万人に1人の割合でがんに発症する人が増える水準」として、2010年に有害大気汚染物質の指針値が設定されました11)

体内への吸収と排出 人が砒素及びその無機化合物を体内に取り込む可能性があるのは、主に食物や飲み水、呼吸によると考えられます。体内に取り込まれた場合は、24 時間以内に血液を介して肝臓、腎臓、肺、脾臓や小腸粘膜に多く分布します12)。三価の砒素は五価に酸化されたり、有機砒素化合物に変化して、主に尿に含まれて排せつされますが、皮膚がむけたり、毛髪が抜けるときにも砒素が一緒に排せつされると考えられます3)。骨、爪、皮膚や毛髪には長期間残留するため、慢性中毒の指標として使われています12)

影 響 砒素はもともと自然界に存在するため、環境中から検出されています。水道浄水からは水道水質基準を超える濃度は検出されていませんが、水道水の原水、河川や地下水からは水道水質基準や環境基準を超える濃度が検出されています。これらは主に地質由来のものと考えられ、水道水の場合は原水の希釈などによる対応がなされています2)
 なお、無機砒素化合物ではありませんが、2003年には、茨城県神栖町(現:神栖市)で、ジフェニルアルシン酸を主成分とする有機砒素化合物によって、きわめて高濃度の汚染が地下水で見つかり、この地下水を飲用していた住民に立ちくらみ、歩行困難、手のふるえなどの症状が報告されています13)。世界各地では、砒素に汚染された地下水の飲用によって深刻な健康被害が発生しています。
 食品からの摂取に関しては、ヒジキに無機砒素化合物が含まれていることが指摘されましたが、ヒジキを極端に多く摂取するのではなく、バランスのよい食生活を心がければ、健康上のリスクが高まることはないと考えられます14)。ヒジキ以外の海藻類などにも砒素は含まれていますが、それらのほとんどは、毒性が低い有機砒素化合物であることが確認されています14)15)
 大気中からは過去に、有害大気汚染物質の指針値を超える濃度の砒素が検出されています。

■生態影響

 砒素及びその無機化合物は、三酸化砒素の魚類に対する有害性からもPRTR制度の対象物質に選定されていますが、現在のところ、わが国では水生生物に対する信頼できるPNEC(予測無影響濃度)は算定されていません。
 なお、(独)製品評価技術基盤機構及び(財)化学物質評価研究機構の「化学物質の初期リスク評価書」では、藻類の生長阻害を指標として、河川水中濃度の実測値を用いて水生生物に対する影響について評価を行っており、環境中の水生生物へ悪影響を及ぼしていることが示唆されるとして、砒素及びその無機化合物を詳細な調査や評価などを行う必要がある候補物質としています4)
 また、土壌環境基準とともに農作物(米)の生育阻害防止の観点から、「農用地の土壌の汚染防止等に関する法律(農用地土壌汚染防止法)」によって、砒素の土壌中の基準値は15 mg/kgと定められています。

性 状 砒素:灰色の固体
三酸化砒素:白色の固体
アルシン:無色透明の気体
生産量16)
(2010年)
【砒素】
国内生産量:約40トン(推定)
輸 入 量:約74トン
輸 出 量:約13トン
排出・移動量
(2010年度
PRTRデータ)
環境排出量:約1,200トン 排出源の内訳[推計値](%) 排出先の内訳[推計値](%)
事業所(届出) 100 大気 0
事業所(届出外) 0 公共用水域 2
非対象業種 土壌
移動体 埋立 98
家庭 (届出以外の排出量も含む)
事業所(届出)における排出量:約1,200トン 業種別構成比(上位5業種、%)
非鉄金属製造業 99
下水道業 1
金属鉱業 0
パルプ・紙・紙加工品製造業 0
産業廃棄物処分業(特別管理産業廃棄物処分業を含む。) 0
事業所(届出)における移動量:約130トン 移動先の内訳(%)
廃棄物への移動 100 下水道への移動 0
業種別構成比(上位5業種、%)
窯業・土石製品製造業 52
非鉄金属製造業 34
電気機械器具製造業 10
化学工業 3
下水道業 0
PRTR対象
選定理由
発がん性,変異原性,経口慢性毒性生態毒性(三酸化砒素:魚類),作業環境許容濃度
環境データ

大気

  • 有害大気汚染物質モニタリング調査(一般環境大気):指針値超過数0/176地点,平均濃度0.0000013 mg/m3,最大濃度0.0000059 mg/m3;[2009年度,環境省]17)

水道水

  • 原水・浄水水質試験(砒素として測定):水道水質基準超過数;原水22/ 5210地点,浄水0/ 5439地点;[2009年度,日本水道協会]18) 19)

公共用水域

  • 公共用水域水質測定(砒素として測定):環境基準超過数25/4380地点,最大濃度0.54 mg/L;[2010年度,環境省]20)

地下水

  • 地下水質測定(砒素として測定):環境基準超過数;概況調査63/3338本,汚染井戸周辺地区調査43/236本,継続監視調査292/568本;[2009年度,環境省] 21)

土壌

  • 土壌汚染調査:環境基準超過数(1991〜2009年度累積)1397事例/10251調査事例;[2009年度,環境省]22)

生物(鳥)

  • 化学物質環境実態調査(砒素として測定):検出数0/8検体( 検出下限値0.1 mg/kg);[1980年度,環境省] 23)

生物(貝)

  • 化学物質環境実態調査(砒素として測定):検出数15/15検体,最大濃度2.5 mg/kg;[1979年度,環境省] 23)

生物(魚)

  • 化学物質環境実態調査(砒素として測定):検出数37/40検体,最大濃度3.1 mg/kg;[1979年度,環境省] 23)
適用法令等
  • 大気汚染防止法:有害大気汚染物質(優先取組物質)
  • 有害大気汚染物質指針値:0.000006 mg/m3以下(砒素として,1年平均値)
  • 水道法:水道水質基準値(砒素及びその化合物として) 砒素の量として0.01 mg/L以下
  • 水質環境基準(健康項目):0.01 mg/L以下(砒素として)
  • 地下水環境基準:0.01 mg/L以下(砒素として)
  • 水質汚濁防止法:有害物質,排水基準0.1 mg/L以下(砒素として)
  • 土壌環境基準:0.01 mg/L以下(砒素として)
  • 農用地土壌汚染防止法:特定有害物質
  • 土壌汚染対策法:特定有害物質,土壌溶出量基準0.01 mg/L以下,土壌含有量基準150 mg/kg以下(砒素として)
  • 廃棄物処理法:特定有害産業廃棄物,金属等を含む産業廃棄物に係る判定基準(汚泥)0.3 mg/L以下
  • 労働安全衛生法:三酸化砒素の管理濃度0.003 mg/m3(砒素として)
  • 食品衛生法:残留農薬基準 例えば,ばれいしょ 1.0 ppm

注)排出・移動量の項目中、「−」は排出量がないこと、「0」は排出量はあるが少ないことを表しています。

■引用・参考文献

■用途に関する参考文献