リスクコミュニケーションのための化学物質ファクトシート
この文書を印刷される場合はこちら(PDF)
作成年: 2012年

ビス(N,N-ジメチルジチオカルバミン酸)N,N´-エチレンビス(チオカルバモイルチオ亜鉛)

別   名 ポリカーバメート
管理番号 329
PRTR政令番号 1-371(化管法施行令(2021年10月20日公布)の政令番号)
C A S 番 号 64440-88-6
構 造 式 ビス(N,N-ジメチルジチオカルバミン酸)N,N´-エチレンビス(チオカルバモイルチオ亜鉛)構造式
  • ビス(N,N-ジメチルジチオカルバミン酸)N,N´-エチレンビス(チオカルバモイルチオ亜鉛)はポリカーバメートとも呼ばれ、魚網防汚剤として漁業、水産養殖業で使われています。また、畑、果樹園やゴルフ場で殺菌剤として使われている農薬の有効成分(原体)でもあります。
  • 2010年度のPRTRデータでは、環境中への排出量は約440トンでした。ほとんどが魚網防汚剤や農薬の使用に伴って排出されたもので、海や土壌へ排出されました。

■用途

 ビス(N,N-ジメチルジチオカルバミン酸)N,N´-エチレンビス(チオカルバモイルチオ亜鉛)(以下「ポリカーバメート」と表記します)は、常温では白っぽい色の固体で、水に溶けにくく、かすかなイオウ臭があります。魚網防汚剤として漁業、水産養殖業で使われています。また、カビや細菌による病害防除に使われる殺菌剤の有効成分(原体)として用いられ、水和剤として製剤化されています。
 ポリカーバメートは、細菌体内の酵素に反応してエネルギー代謝を阻害することによって、殺菌作用を発揮すると考えられています。マンネブ剤と似た効果をもち、ブドウやかんきつ類などの果樹、ハクサイ、キュウリやタマネギなどの野菜、花きや芝生などに使われています。

■排出・移動

 2010年度のPRTRデータによれば、わが国では1年間に約440トンが環境中へ排出されたと見積もられています。ほとんどが魚網防汚剤や 農薬の使用に伴って排出されたもので、海や土壌へ排出されました。この他、化学工業や繊維工業の事業所から廃棄物として約3.6トンが移動されました。

■環境中での動き

 ポリカーバメートの水中での加水分解の速度はpH(水素イオン指数)によって差があり、pH5では240日、pH7では42日、pH9では6日で半分の濃度になったとされています1)。水中では光によっても 分解され、pH7.5の自然水の場合、約11日で半分の濃度になったとされています1)

■健康影響

毒 性 マウスに繰り返してポリカーバメートを口から与えた実験では、異常な呼吸音、流涙、不活発といった症状がみられており、これらの症状から中枢神経抑制作用と気道に対する刺激性があると考えられています2)
 厚生労働省残留農薬安全性評価委員会は、ポリカーバメートのADI(一日許容摂取量)を体重1 kg当たり1 日0.010 mgと算出し3)、これに基づいて水道水質管理目標値が設定されています。

体内への吸収と排出 人がポリカーバメートを体内に取り込む可能性があるのは、食物や飲み水によると考えられます。現在のところ、体内へのポリカーバメートの吸収と排出に関する知見はありません。

影 響 食物からのポリカーバメートの摂取量に関する情報は現在のところ得られていませんが、水道水、河川や地下水からは水道水質管理目標値を超える濃度のポリカーバメートは検出されていません。飲み水を通じて口から取り込むことによる人の健康への影響は小さいと考えられます。

■生態影響

 ポリカーバメートは、魚類に対する有害性からPRTR制度の対象物質に選定されていますが4)、現在のところ、わが国では水生生物に対する信頼できるPNEC(予測無影響濃度)は算定されていません。

性 状 類白色の固体  水に溶けにくい
生産量1)
(2010年)
国内生産量:約180トン(原体)
排出・移動量
(2010年度
PRTRデータ)
環境排出量:約440トン 排出源の内訳[推計値](%) 排出先の内訳[推計値](%)
事業所(届出) 3 大気 3
事業所(届出外) 公共用水域 56
非対象業種 97 土壌 41
移動体 埋立
家庭 (届出以外の排出量も含む)
事業所(届出)における排出量:約15トン 業種別構成比(上位5業種、%)
繊維工業 94
化学工業 6
事業所(届出)における移動量:約3.6トン 移動先の内訳(%)
廃棄物への移動 100 下水道への移動
業種別構成比(上位5業種、%)
化学工業 98
繊維工業 2
PRTR対象
選定理由
生態毒性(魚類)
環境データ

水道水

  • 原水・浄水水質試験:水道水質管理目標値超過数;原水0/710地点,浄水0/626地点;[2009年度,日本水道協会]5) 6)

公共用水域

  • 要調査項目存在状況調査:検出数0/30地点(検出下限値 0.002 mg/L);[2008年度,環境省]7)
  • 化学物質環境実態調査(ポリカーバメート,ジラムとして測定):検出数0/51検体(検出下限値0.00005 mg/L);[2006年度,環境省]8)

地下水

  • 要調査項目存在状況調査:検出数0/20地点(検出下限値0.002 mg/L);[2004年度,環境省]9)

その他

生物(貝魚)

  • 化学物質環境実態調査(ポリカーバメート,ジラムとして測定):検出数0/30検体(検出下限値0.0003 mg/kg);[2006年度,環境省] 8)
適用法令等
  • 化学物質の審査及び製造等の規制に関する法律(化審法):優先評価化学物質
  • 水道法:水道水質管理目標値0.03 mg/L以下(農薬類;ポリカーバメート)
  • ゴルフ場使用農薬に係る暫定指導指針値:0.3 mg/L(排水口)
  • 食品衛生法:残留農薬基準(ジチオカルバメート;ジネブ,ジラム,チラム,ニッケルビス(ジチオカーバメート),フェルバム,プロピネブ,ポリカーバメート,マンコゼブ,マンネブ及びメチラムを二硫化炭素含量に換算したものの総和) 例えば,米(玄米)0.3 ppm,ばれいしょ0.2 ppm
  • 農薬取締法:登録農薬

注)排出・移動量の項目中、「−」は排出量がないこと、「0」は排出量はあるが少ないことを表しています。
※本物質の生産量は2010年農薬年度(2009年10月〜2010年9月)のものです。

■引用・参考文献

■用途に関する参考文献

  • 日本植物防疫協会『農薬ハンドブック2011(改訂新版)』(2011年2月発行)

■適用作物に関する情報