リスクコミュニケーションのための化学物質ファクトシート
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作成年: 2012年

ノニルフェノール

別   名
管理番号 320
PRTR政令番号 1-042(化管法施行令(2021年10月20日公布)の政令番号)
C A S 番 号 25154-52-3
構 造 式 ノニルフェノール構造式
  • ノニルフェノールは、工業用の界面活性剤として用いられるノニルフェノールエトキシレートの原料、印刷インキの材料、酸化防止剤の原料などに使われています。
  • 2010年度のPRTRデータでは、環境中への排出量は約3.8トンでした。すべてが事業所から排出されたもので、ほとんどが大気中へ排出されました。

■用途

 ノニルフェノールは、常温で無色透明または淡い黄色の液体です。アルキル基の一種であるノニル基の構造の違いから、数多くの異性体があります。PRTR制度では、これらの異性体の混合物としてのノニルフェノールを対象物質としています。
 ノニルフェノールの約60%は、工業用の界面活性剤として用いられるポリ(オキシエチレン)ノニルフェニルエーテル(以下「ノニルフェノールエトキシレート」と表記します)を製造する際の原料として使われています。この他、印刷インキの材料、酸化防止剤の原料、フェノール樹脂用積層板の原料やエポキシ樹脂などへの安定剤として使われています。
 1998年から、界面活性剤を生産したり使用する業界では、段階的にノニルフェノールエトキシレートの使用量を減らしてきており、ノニルフェノールの製造量も減少傾向をたどってきています。

■排出・移動

 2010年度のPRTRデータによれば、わが国では1年間に約3.8トンが環境中へ排出されたと見積もられています。すべてが中小を含む電気機械器具製造業や輸送用機械器具製造業などの事業所から排出されたもので、ほとんどが大気中へ排出されました。この他、化学工業などの事業所から廃棄物として約42トン、下水道へ0.003トンが移動されました。

■環境中での動き

 大気中へ排出されたノニルフェノールは、浮遊する微粒子へ吸着したり、雨水へ溶け、大部分は地表に降下します1)。残ったノニルフェノールは化学反応によって分解されると推定され1)、その速度は4〜8時間程度で半分の濃度になると計算されています1)。ノニルフェノールは土壌へ吸着しやすい性質があることから1)、土壌へ降下したノニルフェノールは土壌に分布すると予測されます。
 また、ノニルフェノールは、環境中でノニルフェノールエトキシレートが分解されることによっても生成されます1)。ノニルフェノールの水中への排出量はわずかですが、ノニルフェノールエトキシレートが水中に排出されることによって、ノニルフェノールは水中にも存在する可能性があります。水中では、加水分解や微生物分解はされにくいとされ、主に水底の泥に吸着して存在すると予測されます1)

■健康影響

毒 性 ラットに体重1 kg当たり1日50 mgのノニルフェノールを2世代にわたって、口から与えた実験では、親世代、子世代とも肝臓や腎臓の組織変化が認められました2)
 この他、ラットにノニルフェノールを3世代にわたって、餌に混ぜて与えた実験では、全て世代に腎尿細管の上皮の組織変化や腎尿細管の拡張などが認められ、この実験結果から求められる口から取り込んだ場合のLOAEL(最小毒性量)は、体重1 kg当たり1日15 mgでした1)
 なお、ノニルフェノールの内分泌かく乱作用について、雌のラットに妊娠から授乳終了までの間、ノニルフェノールを与えて、母親と生まれた子にどのような変化が起きるかを観察する1世代試験では、明らかな内分泌かく乱作用は認められませんでした3)

体内への吸収と排出 人がノニルフェノールを体内に取り込む可能性があるのは、食物や飲み水、呼吸によると考えられます。体内に取り込まれた場合は、代謝物に変化し、尿や便に含まれて排せつされます1)

影 響 食物や飲み水を通じて口からノニルフェノールを取り込んだ場合について、環境省の「化学物質の環境リスク初期評価」では、肝臓や腎臓の組織変化が認められたラットの実験結果に基づいて、無毒性量等を体重1 kg当たり1日1.0 mgとしていますが、この環境リスク初期評価が行われた当時は、十分な測定データが得られておらず、人の健康への影響は評価できていません2)
 なお、(独)製品評価技術基盤機構及び(財)化学物質評価研究機構の「化学物質の初期リスク評価書」では、口から取り込んだ場合について、腎尿細管の上皮の組織変化が認められたラットの実験におけるLOAELと水道水中濃度の測定データ(不検出であり、検出下限値の1/2の値を用いた)及び魚体内濃度の実測値を用いて、人の健康影響を評価しており、現時点では人の健康へ悪影響を及ぼすことはないと判断しています1)
 この他、(独)産業技術総合研究所では、ノニルフェノールについて詳細リスク評価を行っています4)
 また、ノニルフェノールは大気中からも検出されていますが、呼吸によって取り込んだ場合について、人の健康への影響を評価できる情報は現在のところ報告されていません。

■生態影響

 環境省の「化学物質の環境リスク初期評価」では、ミジンコの死亡及び遊泳阻害を根拠として、水生生物に対するPNEC(予測無影響濃度)を0.00021 mg/Lとしています2)。このPNECを超える濃度のノニルフェノールが河川などから検出されており、環境省ではノニルフェノールを詳細な評価を行う候補としています2)
 なお、(独)製品評価技術基盤機構及び(財)化学物質評価研究機構の「化学物質の初期リスク評価書」では、藻類の生長阻害を指標として、河川水中濃度の実測値を用いて水生生物に対する影響について評価を行っており、現時点では環境中の水生生物に悪影響を及ぼしていることが示唆されるとして、ノニルフェノールを詳細な調査や評価などを行う必要がある候補物質としています1)。この他、(独)産業技術総合研究所では、ノニルフェノールについて詳細リスク評価を行っています4)。この詳細リスク評価では、ヒメメダカ個体の生存率及び繁殖能に関する試験結果等に基づき、魚類に対する個体群レベルのPNECを0.00082〜0.0021 mg/Lとしています4)
 4-ノニルフェノール(分岐型)は、メダカに対して内分泌かく乱作用をもつことが推察されています3)

性 状 無色透明または淡い黄色の液体
生産量5)
(2010年)
国内生産量:約6,000トン(推定)
排出・移動量
(2010年度
PRTRデータ)
環境排出量:約3.8トン 排出源の内訳[推計値](%) 排出先の内訳[推計値](%)
事業所(届出) 15 大気 100
事業所(届出外) 85 公共用水域 0
非対象業種 土壌
移動体 埋立
家庭 (届出以外の排出量も含む)
事業所(届出)における排出量:約0.57トン 業種別構成比(上位5業種、%)
電気機械器具製造業 47
輸送用機械器具製造業 44
プラスチック製品製造業 5
化学工業 4
事業所(届出)における移動量:約42トン 移動先の内訳(%)
廃棄物への移動 100 下水道への移動 0
業種別構成比(上位5業種、%)
化学工業 73
金属製品製造業 11
電気機械器具製造業 10
輸送用機械器具製造業 4
プラスチック製品製造業 2
PRTR対象
選定理由
生殖・発生毒性,生態毒性(甲殻類)
環境データ

大気

  • 内分泌攪乱化学物質環境実態調査結果:検出数20/20地点,最大濃度0.0000051 mg/m3;[2004年度,環境省]6)

水道水

  • 厚生科学研究:検出数,原水1/25検体,最大濃度0.00011 mg/L,浄水0/26検体(検出下限値0.0001 mg/L);[1998年度,厚生省]7)

公共用水域

  • 要調査項目存在状況調査:検出数2/45地点,最大濃度0.0009 mg/L;[2010年度,環境省]8)
  • 化学物質環境実態調査:検出数23/27検体,最大濃度0.00048 mg/L;[2005年度,環境省]9)
  • 内分泌攪乱化学物質環境実態調査結果:検出数9/65地点,最大濃度0.0064 mg/L;[2004年度,環境省]10)

地下水

  • 要調査項目存在状況調査:検出数0/2地点(定量下限値0.0001 mg/L);[2010年度,環境省]8)
  • 内分泌攪乱化学物質環境実態調査結果:検出数0/10地点(検出下限値0.0001 mg/L);[2004年度,環境省]10)

底質

  • 内分泌攪乱化学物質環境実態調査結果:検出数21/24地点,最大濃度5.0 mg/kg;[2004年度,環境省]10)
適用法令等

注)排出・移動量の項目中、「−」は排出量がないこと、「0」は排出量はあるが少ないことを表しています。

■引用・参考文献

■用途に関する参考文献