リスクコミュニケーションのための化学物質ファクトシート
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作成年: 2012年

2,6-ジ-tert-ブチル-4-クレゾール

別   名 2,6-ジ-tert-ブチル-p-クレゾール、ジブチルヒドロキシトルエン、BHT
管理番号 207
PRTR政令番号 1-232(化管法施行令(2021年10月20日公布)の政令番号)
C A S 番 号 128-37-0
構 造 式 2,6-ジ-tert-ブチル-4-クレゾール構造式
  • 2,6-ジ-tert-ブチル-4-クレゾールは、各種プラスチックの酸化防止剤、天然ゴムや合成ゴムの老化防止剤、食品添加物として使われています。
  • 2010年度のPRTRデータでは、環境中への排出量は約31トンでした。主に事業所から排出されたもので、主に大気中へ排出されたほか、土壌などへも排出されました。

■用途

 2,6-ジ-tert-ブチル-4-クレゾールは、常温で無色または白色から淡黄色の、水に溶けにくい固体です。各種プラスチックの酸化防止剤、天然ゴムや合成ゴムの老化防止剤として使われたり、酸化防止剤として食品添加物や家畜用飼料に使われています。また、家庭用殺虫剤の補助剤や不快害虫用殺虫剤としても使われています。

■排出・移動

 2010年度のPRTRデータによれば、わが国では1年間に約31トンが環境中へ排出されたと見積もられています。主に化学工業などの事業所などから排出されたもので、主に大気中へ排出されたほか、土壌などへも排出されました。家庭用殺虫剤などの使用に伴って家庭からも排出されました。この他、化学工業などの事業所から廃棄物として約43トン、下水道へ約0.001トンが移動されました。

■環境中での動き

 大気中へ排出された2,6-ジ-tert-ブチル-4-クレゾールは、化学反応によって分解され、3.5〜35時間で半分の濃度になると計算されています1)。水中に排出された場合は、化審法の分解度試験では微生物分解はされにくいとされています1)

■健康影響

毒 性 ラットに体重1 kg当たり1日100 mgの2,6-ジ-tert-ブチル-4-クレゾールを、餌に混ぜて与えた二世代試験では、親ラット及び生まれたラットに、体重増加の抑制や甲状腺の機能亢進が認められました1)
 なお、国連食糧農業機関(FAO)と世界保健機関(WHO)の合同食品添加物専門家会議(JECFA)では、ラットを使った実験における生まれたラット数や雌雄比への影響などに基づいて、NOEL(無影響量)を体重1 kg当たり1日25 mgとし、食品の酸化防止剤としての2,6-ジ-tert-ブチル-4-クレゾールのADI(一日許容摂取量)を体重1 kg当たり1日0.3 mgと算出しています2)

体内への吸収と排出 人が2,6-ジ-tert-ブチル-4-クレゾールを体内に取り込む可能性があるのは、食物や飲み水、呼吸によると考えられます。体内に取り込まれた場合は、マウスの実験によると、代謝物に変化し、7日間で26〜50%が尿に含まれて、41〜65%がふんに含まれて、6〜9%が呼気に含まれて、合計で96〜98%が排せつされたと報告されています1)

影 響 食物や飲み水を通じて口から取り込んだ場合について、環境省の「化学物質の環境リスク初期評価」では、体重増加などが認められたラットの実験結果に基づいて、無毒性量等を体重1 kg当たり1日25 mgとしています1)。飲み水の測定データがないため、公共用水域淡水の測定データを用い、食物中濃度の実測値とあわせて計算すると、人が口から2,6-ジ-tert-ブチル-4-クレゾールを取り込む量は最大で体重1 kg当たり1日0.0017 mg程度と予測されます1)。これは上記の無毒性量等よりも十分に低く、食物や飲み水を通じて口から取り込むことによる人の健康への影響は小さいと考えられます。
 呼吸によって取り込んだ場合については、人の健康への影響を評価できる情報は現在のところ報告されていません。なお、参考として、この環境リスク初期評価では、呼吸によって取り込んだ場合の2,6-ジ-tert-ブチル-4-クレゾールの無毒性量等を口から取り込んだ場合の無毒性量等から換算して求め、大気中から検出された濃度を用いて評価しています1)。この結果、呼吸によって取り込んだ場合について知見を収集する必要性は少ないとしています1)

■生態影響

 環境省の「化学物質の環境リスク初期評価」では、ミジンコの繁殖阻害を根拠として、水生生物に対するPNEC(予測無影響濃度)を0.00069 mg/Lとしています1)。過去の測定では、このPNECを超える濃度の2,6-ジ-tert-ブチル-4-クレゾールが海水域から検出されており、2,6-ジ-tert-ブチル-4-クレゾールを詳細な評価を行う候補としています1)

性 状 無色または白色あるいは淡黄色の固体   水に溶けにくい
生産量3)
(2010年)
国内生産量:約50トン
排出・移動量
(2010年度
PRTRデータ)
環境排出量:約31トン 排出源の内訳[推計値](%) 排出先の内訳[推計値](%)
事業所(届出) 21 大気 81
事業所(届出外) 52 公共用水域 5
非対象業種 9 土壌 14
移動体 埋立
家庭 17 (届出以外の排出量も含む)
事業所(届出)における排出量:約6.5トン 業種別構成比(上位5業種、%)
化学工業 81
非鉄金属製造業 15
プラスチック製品製造業 2
鉄鋼業 1
産業廃棄物処分業(特別管理産業廃棄物処分業を含む。) 0
事業所(届出)における移動量:約43トン 移動先の内訳(%)
廃棄物への移動 100 下水道への移動 0
業種別構成比(上位5業種、%)
化学工業 60
鉄鋼業 26
非鉄金属製造業 4
電気機械器具製造業 4
ゴム製品製造業 2
PRTR対象
選定理由
生態毒性(甲殻類)
環境データ

大気

  • 化学物質環境実態調査:検出数(温暖期)33/34検体、(寒冷期)32/37検体,最大濃度(温暖期)0.00023 mg/m3、(寒冷期)0.001 mg/m3;[2008年度,環境省]4)

公共用水域

  • 化学物質環境実態調査:検出数9/36検体,最大濃度0.0000078 mg/L;[2008年度,環境省]4)
  • 化学物質環境実態調査:検出数26/156検体,最大濃度0.0016 mg/L;[2001年度,環境省]4)

底質

  • 化学物質環境実態調査:検出数51/164検体,最大濃度0.30 mg/kg;[2008年度,環境省]4)

生物(貝)

  • 化学物質環境実態調査:検出数18/31検体,最大濃度0.0018 mg/kg;[2008年度,環境省] 6)

生物(魚)

  • 化学物質環境実態調査:検出数48/85検体,最大濃度0.026 mg/kg;[2008年度,環境省] 6)

生物(鳥)

  • 化学物質環境実態調査:検出数5/10検体,最大濃度0.0025 mg/kg;[2008年度,環境省] 6)
適用法令等
  • 化学物質の審査及び製造等の規制に関する法律(化審法):優先評価化学物質
  • 食品衛生法:残留基準 例えば,豚の筋肉0.03 ppm ,鶏の筋肉0.02 ppm
  • 食品衛生法:食品添加物使用基準 例えば,チューインガム0.75 g/kg ,油脂・バターなど0.20 g/kg

注)排出・移動量の項目中、「−」は排出量がないこと、「0」は排出量はあるが少ないことを表しています。

■引用・参考文献

■用途に関する参考文献