リスクコミュニケーションのための化学物質ファクトシート
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作成年: 2012年

6価クロム化合物

主な物質 クロム酸(無水)、クロム酸鉛、二クロム酸カリウム、クロム酸ストロンチウム、二クロム酸ナトリウム、クロム酸亜鉛、クロム酸カルシウム
管理番号 88
PRTR政令番号 特定1-112(化管法施行令(2021年10月20日公布)の政令番号)
  • クロムの6価化合物には多くの種類があります。それぞれ顔料、染料や塗料に使われるほか、メッキや金属表面処理、酸化剤などに使われています。
  • 2010年度のPRTRデータでは、環境中への排出量は約22トンでした。事業所から排出されたほか、塗料の使用に伴い工事現場から排出されたもので、河川や海などへ排出されたほか、土壌や大気中へも排出されました。

■用途

 クロムには多くの種類の化合物があり、クロムのイオンの価数が3価のものを3価クロム化合物、6価のものを6価クロム化合物といいます。6価クロム化合物には多くの種類の化合物があり、代表的な化合物としては以下があります。

代表的な6価クロム化合物の種類と用途

物質名及び組成式 CAS番号 性状 用途
クロム酸(無水)
Cr O3
1333-82-0 常温で暗赤色の固体。水に溶けやすい。 顔料の原料、窯業原料、研磨材、酸化剤、メッキや金属表面処理
クロム酸鉛
PbCrO4
7758-97-6 紅鉛鉱として天然に存在する。常温で黄色または赤黄色の固体。水に溶けにくい。 黄色顔料
二クロム酸カリウム(別名:重クロム酸カリウム)
K2Cr2O7
7778-50-9 常温で橙赤色の固体。水に溶けやすい。 顔料の原料、染色用剤、酸化剤・触媒、マッチ・花火・医薬品などの原料、着火剤
クロム酸ストロンチウム
SrCrO4
7789-06-2 常温で淡黄色の固体。 塗料や絵の具の原料
二クロム酸ナトリウム(別名:重クロム酸ナトリウム)
Na2Cr2O7
10588-01-9 常温で橙黄色の固体。水に溶けやすい。 クロム化合物の原料、顔料・染料などの原料、酸化剤・触媒、金属表面処理、皮なめし、防腐剤、分析用試薬
クロム酸亜鉛
ZnCrO4
13530-65-9 常温で黄色の固体。水に溶けにくい。 錆止め塗料の原料
クロム酸カルシウム
CaCrO4
13765-19-0 常温で淡赤黄色の固体。 着色料

 なお、自動車部品のクロメート(亜鉛メッキなどの後処理として耐食性を与えるためにクロム酸塩の被膜をつけること)に6価クロムが使われてきましたが、わが国の自動車業界は、2008年1月以降、その使用を廃止するために自主的な取り組みを進めています。

■排出・移動

 2010年度のPRTRデータによれば、わが国では1年間に約22トンが環境中へ排出されたと見積もられています。下水道業などの事業所や中小の事業所から排出されたほか、塗料の使用に伴って工事現場から排出されたもので、河川や海などへ排出されたほか、土壌や大気中へも排出されました。この他、金属製品製造業などの事業所から廃棄物として約340トン、下水道へ約2.0トンが移動されました。

■環境中での動き

 環境中へ排出された6価クロム化合物は、河川や海、土壌、水底の泥に存在していると考えられます。土壌中に入った6価クロムは、少量の場合は有機物などとの反応によって容易に還元されて3価クロムに変化し1)、水に溶けにくい形になると考えられますが、大量に入ると6価クロムのまま土壌中に存在したり、地下水に入ります。

■健康影響

毒 性 生物細胞やヒトリンパ球を用いた染色体異常試験などの変異原性の試験で、陽性を示したと報告されています2)。また、クロム酸やクロム酸系顔料の製造、クロムメッキなどの工場などの従業員にみられる肺がんについて、6価クロム化合物の関与が認められており、国際がん研究機関(IARC)は6価クロム化合物をグループ1(人に対して発がん性がある)に分類しています2)。日本でも、クロム酸製造従事者における肺がんが職業がんとして認定されています2)
 この他、6価クロム化合物の毒性として、溶液にさわったり、非常に細かい蒸気を吸い込むことによって、手足、顔などに発赤、発疹が起こり、炎症が生じることが知られています2)。また、鼻の粘膜やのどへも炎症が生じやすく、ひどくなると鼻中隔の内部の組織にまで炎症が及ぶことがあります2)
 また、重クロム酸カリウムを餌に混ぜてラットに与えた実験では、親ラットの生殖能の低下、子ラットの体重の減少や生存率の低下がみられました3)
 世界保健機関(WHO)では6価クロム化合物の飲料水の最大許容濃度を0.05 mg/Lとしています4)。これに基づいて水道水質基準水質環境基準が設定されています1)4)

体内への吸収と排出 人が一般的に6価クロム化合物を体内に取り込む可能性があるのは、飲み水や呼吸によると考えられます。体内に取り込まれた場合は、細胞膜を透過しやすいので体内に吸収され、細胞内では直ちに3価へ還元された後、蓄積されたり、尿に含まれて排せつされると考えられます2)。また、飲み水によって体内に取り込んだ場合の排せつは比較的早いとの報告があります2)

影 響 水道水や河川からは水道水質基準値や水質環境基準を超える濃度の6価クロム化合物は検出されていませんが、過去に汚染された地下水からは一部でまだ環境基準を超える濃度が検出されています。これらの汚染された地下水を長期間飲用するような場合を除いて、飲み水を通じて口から取り込むことによる人の健康への影響は小さいと考えられます。
 環境省の有害大気汚染物質モニタリング調査はクロム全量で測定されており、6価クロム化合物のみの大気中の濃度は不明です。
 なお、(独)産業技術総合研究所では、6価クロムについて詳細リスク評価を行っており、この中で6地点の大気中濃度を測定しています。いずれの地点においても定量下限値(1地点は0.0000007 mg/m3、5地点は0.0000011 mg/m3)を下まわる結果となっています5)

■生態影響

 6価クロム化合物は、二クロム酸ナトリウム及び二クロム酸カリウムの甲殻類に対する有害性からもPRTR制度の対象物質に選定されていますが、現在のところ、わが国では水生生物に対する信頼できるPNEC(予測無影響濃度)は算定されていません。
 なお、(独)産業技術総合研究所では、6価クロムについて詳細リスク評価を行っています5)

性 状 用途の項を参照
生産量6)
(2010年)
国内生産量:
 約1,600トン(二クロム酸ナトリウム)、
 約8,400トン(クロム酸(無水))
 約410トン(二クロム酸カリウム)
輸 入 量:約20,000トン(二クロム酸ナトリウム)、約950トン(クロム酸(無水))
輸 出 量:約94トン(二クロム酸ナトリウム)、約2,800トン(クロム酸(無水))
排出・移動量
(2010年度
PRTRデータ)
環境排出量:約22トン 排出源の内訳[推計値](%) 排出先の内訳[推計値](%)
事業所(届出) 41 大気 6
事業所(届出外) 17 公共用水域 52
非対象業種 42 土壌 42
移動体 埋立
家庭 (届出以外の排出量も含む)
事業所(届出)における排出量:約9.2トン 業種別構成比(上位5業種、%)
下水道業 85
一般廃棄物処理業(ごみ処分業に限る。) 4
鉄鋼業 2
パルプ・紙・紙加工品製造業 2
輸送用機械器具製造業 2
事業所(届出)における移動量:約340トン 移動先の内訳(%)
廃棄物への移動 99 下水道への移動 1
業種別構成比(上位5業種、%)
金属製品製造業 43
輸送用機械器具製造業 26
化学工業 7
一般機械器具製造業 6
非鉄金属製造業 5
PRTR対象
選定理由
発がん性,変異原性,生殖・発生毒性,経口慢性毒性,吸入慢性毒性,作業環境許容濃度,感作性生態毒性(二クロム酸ナトリウム:甲殻類,二クロム酸カリウム:甲殻類)
環境データ

大気

  • 有害大気汚染物質モニタリング調査(クロム及びその化合物として測定,一般環境大気):測定地点数165地点,検体数1980検体,平均濃度0.0000041 mg/m3,最大濃度0.000020 mg/m3;[2009年度,環境省]7)

水道水

  • 原水・浄水水質試験:水道水質基準超過数;原水0/5212地点,浄水0/5374地点;[2009年度,日本水道協会] 8)9)

公共用水域

  • 公共用水域水質測定:環境基準超過数0/4043地点;[2010年度,環境省] 10)

地下水

  • 地下水質測定:環境基準超過数;概況調査0/3189本,汚染井戸周辺地区調査27/48本,継続監視調査14/140本;[2009年度,環境省] 11)

土壌

  • 土壌汚染調査:環境基準超過数(1991〜2009年度累積)752事例/10215調査事例;[2009年度,環境省]12)
適用法令等
  • 大気汚染防止法:有害大気汚染物質(優先取組物質
  • 水道法:水道水質基準値0.05 mg/L以下
  • 水質環境基準(健康項目):0.05 mg/L以下
  • 地下水環境基準:0.05 mg/L以下
  • 水質汚濁防止法:有害物質,排水基準0.5 mg/L(六価クロムとして)
  • 土壌環境基準:0.05 mg/L以下
  • 土壌汚染対策法:特定有害物質,土壌溶出量基準0.05 mg/L以下,土壌含有量基準250 mg/kg以下
  • 廃棄物処理法:特定有害産業廃棄物,金属等を含む産業廃棄物に係る判定基準(汚泥)1.5 mg/L以下
  • 労働安全衛生法:
     クロム酸及びその塩  管理濃度 クロムとして0.05 mg/m3
     重クロム酸及びその塩 管理濃度 クロムとして0.05 mg/m3

注)排出・移動量の項目中、「−」は排出量がないこと、「0」は排出量はあるが少ないことを表しています。

■引用・参考文献

■用途に関する参考文献