■用途
p-オクチルフェノールは、水に溶けにくく、常温で白色の固体です。p-オクチルフェノールにはアルキル基の一種であるオクチル基の構造の違いから、上図のp-tert-オクチルフェノール(CAS番号140-66-9)やp-n-オクチルフェノール(CAS番号1806-26-4)など複数の異性体がありますが、PRTR制度ではこれらの異性体を含めて対象物質としています。
p-オクチルフェノールは、主に、接着剤、印刷インクやワニスに用いられる油溶性フェノール樹脂の原料に使われたり、工業用の界面活性剤として用いられるポリ(オキシエチレン)オクチルフェニルエーテルの原料に使われています。
■排出・移動
2010年度のPRTRデータによれば、わが国では1年間に約0.31トンが環境中へ排出されたと見積もられています。すべてが化学工業などの事業所から排出されたもので、すべて大気中へ排出されました。この他、化学工業などの事業所から廃棄物として約48トンが移動されました。
■環境中での動き
大気中へ排出されたp-オクチルフェノールは、化学反応によって分解され、1.3〜13時間で半分の濃度になると計算されています1)。水中では微生物分解はされにくいと報告されています2)。また、ポリ(オキシエチレン)オクチルフェニルエーテルが環境中で微生物分解されると、p-オクチルフェノールに戻ります。
■健康影響
毒 性 ラットに体重1 kg当たり1日70 mgのp-tert-オクチルフェノールを28日間、口から与えた実験では、よだれを流したり、A/G比(血清たんぱく成分の中のアルブミンとグロブリンの比、アルブミンは肝臓だけでつくられるため、肝臓に異常があるとA/G比は小さくなる)が低下するといった影響が認められています3)。
なお、p-tert-オクチルフェノールの内分泌かく乱作用について、雌のラットに妊娠から授乳終了までの間、p-tert-オクチルフェノールを与えて、母親と生まれた子にどのような変化が起きるかを観察する1世代試験では、明らかな内分泌かく乱作用は認められませんでした4)。
体内への吸収と排出 人がp-オクチルフェノールを体内に取り込む可能性があるのは、呼吸や飲み水などによると考えられます。現在のところ、体内へのp-オクチルフェノールの吸収と排出に関する知見はありません。
影 響 食物や飲み水を通じて口からp-tert-オクチルフェノールを取り込んだ場合について、環境省の「化学物質の環境リスク初期評価」では、A/G比の低下などが認められたラットの実験結果に基づいて、無毒性量等を体重1
kg当たり1日1.5 mgとしていますが、この環境リスク初期評価が行われた時点では、十分な測定データが得られておらず、人の健康への影響は評価できていません3)。
p-tert-オクチルフェノールは大気中からも検出されていますが、呼吸によって取り込んだ場合について、人の健康への影響を評価できる情報は現在のところ報告されていません。
■生態影響
環境省の「化学物質の環境リスク初期評価」では、p-tert-オクチルフェノールについて、ミジンコの死亡を根拠として水生生物に対するPNEC(予測無影響濃度)を0.00048 mg/Lとしています3)。これまでの測定で、このPNECを超える濃度のp-tert-オクチルフェノールが河川などから検出されたことがあり、環境省ではp-tert-オクチルフェノールを詳細な評価を行う候補としています。また、この環境リスク初期評価では、p-n-オクチルフェノールについて、魚類の成長阻害を根拠としてPNECを0.00033 mg/Lとしています。これまで得られた河川や海域の水中濃度はこのPNECよりも十分に低いため、この結果に基づけば水生生物への影響は小さいと考えられます1)。
なお、p-tert-オクチルフェノールは、メダカに対して内分泌かく乱作用をもつことが強く推察されています4)。
性 状 |
白色の固体 水に溶けにくい |
生産量5)
(2010年) |
国内生産量:約15,000トン(推定) |
排出・移動量
(2010年度 PRTRデータ) |
環境排出量:約0.31トン |
排出源の内訳[推計値](%) |
排出先の内訳[推計値](%) |
事業所(届出) |
100 |
大気 |
100 |
事業所(届出外) |
− |
公共用水域 |
− |
非対象業種 |
− |
土壌 |
− |
移動体 |
− |
埋立 |
− |
家庭 |
− |
(届出以外の排出量も含む) |
事業所(届出)における排出量:約0.31トン |
業種別構成比(上位5業種、%) |
化学工業 |
71 |
プラスチック製品製造業 |
29 |
− |
− |
− |
− |
− |
− |
事業所(届出)における移動量:約48トン |
移動先の内訳(%) |
廃棄物への移動 |
100 |
下水道への移動 |
− |
業種別構成比(上位5業種、%) |
化学工業 |
86 |
プラスチック製品製造業 |
9 |
ゴム製品製造業 |
4 |
窯業・土石製品製造業 |
1 |
− |
− |
PRTR対象 選定理由 |
生態毒性(魚類) |
環境データ |
大気
- 内分泌攪乱化学物質環境実態調査結果:検出数17/20地点,最大濃度0.0000025 mg/m3);[2004年度,環境省]6)
公共用水域
- 内分泌攪乱化学物質環境実態調査結果:検出数12/65地点,最大濃度0.00015 mg/L;[2004年度,環境省]7)
- 内分泌攪乱化学物質環境実態調査結果(p-tert-オクチルフェノール):検出数32/65地点,最大濃度0.00047 mg/L;[2003年度,環境省] 8)
- 要調査項目存在状況調査(p-tert-オクチルフェノール):検出数7/45地点,最大濃度0.00035 mg/L;[2007年度,環境省]9)
- 要調査項目存在状況調査(p-n-オクチルフェノール):検出数1/60地点,最大濃度0.00003 mg/L;[2005年度,環境省]10)
- 化学物質環境実態調査(p-tert-オクチルフェノール):検出数0/12検体(検出下限値0.00000092 mg/L);[2005年度,環境省]11)
- 化学物質環境実態調査(p-n-オクチルフェノール):検出数19/33検体,最大濃度0.000024 mg/L;[2005年度,環境省]11)
地下水
- 内分泌攪乱化学物質環境実態調査結果:検出数1/10地点,最大濃度0.00002 mg/L;[2004年度,環境省]7)
- 要調査項目存在状況調査(p-tert-オクチルフェノール):検出数0/5地点(検出下限値0.00001 mg/m3);[2007年度,環境省]9)
- 要調査項目存在状況調査(p-n-オクチルフェノール):検出数0/4地点(検出下限値0.00001 mg/m3);[2005年度,環境省]10)
底質
- 内分泌攪乱化学物質環境実態調査結果:検出数19/24地点,最大濃度0.35 mg/kg;[2004年度,環境省]7)
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適用法令等 |
−
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注)排出・移動量の項目中、「−」は排出量がないこと、「0」は排出量はあるが少ないことを表しています。
■引用・参考文献
■用途に関する参考文献