■用途
エチレンオキシドは、常温で無色透明の気体ですが、温度が11℃以下になると液化します。水に溶けやすい物質です。主にエチレングリコール、2-アミノエタノール、グリコールエーテル、ポリエチレングリコールといった他の化学物質の原料として使われています。また、界面活性剤の原料としても使われています。
エチレンオキシドは、微生物のたんぱく質や遺伝子などに含まれる核酸の水酸基(-OH)やアミノ基(-NH2)などと反応し、これをアルキル基に置き換えてアルキル化し、その構造を変化させます。微生物などはアルキル化によって遺伝子変異を起こしたり死滅するため、エチレンオキシドはくん蒸消毒などに用いられ、特に病院や滅菌代行業などで医療器具の滅菌器に利用されています。
■排出・移動
2010年度のPRTRデータによれば、わが国では1年間に約380トンが環境中へ排出されたと見積もられています。すべてが精密機械製造業や化学工業などの事業所から排出されたもので、主に大気中へ排出されたほか、河川や海などへも排出されました。この他、これらの事業所から廃棄物として約44トン、下水道へ約52トンが移動されました。
■環境中での動き
大気中へ排出されたエチレンオキシドは、化学反応によって分解され、4〜7ヵ月で半分の濃度になると計算されています1) 。水中に入った場合は、主に大気中へ揮発することによって失われたり、一部は微生物分解されたり、加水分解されると考えられます1)。
■健康影響
毒 性 病院で滅菌作業に従事したり、その近くで働いていた人(大部分が1.8 mg/m3以下の濃度の室内で作業に従事)はそうでない人に比べて、認識、記憶、注意、協調運動、末梢神経伝達速度が明らかに低かったと報告されています2)。この他、ラットにエチレンオキシドを含む空気を2年間吸入させた実験では成長に応じた体重増加が見られず、この実験結果から求められる呼吸によって取り込んだ場合のNOAEL(無毒性量)は18.3 mg/m3でした1)。
エチレンオキシドは、アルキル化剤であり、生物の遺伝子に対して直接作用するため、変異原性の試験において、染色体異常の増加や遺伝子の突然変異などが数多く報告されています3)。発がん性については、ラットに92 mg/m3以上の濃度のエチレンオキシドを含む空気を2年間吸入させた実験では、白血病などの増加が認められました3)。人では白血病や胃がんの発生が報告され2)3)、人での発がん性が示唆されており、国際がん研究機関(IARC)ではエチレンオキシドをグループ1(人に対して発がん性がある)に分類しています1)。
体内への吸収と排出 人がエチレンオキシドを体内に取り込む可能性があるのは、呼吸などによると考えられます。体内に取り込まれた場合は、加水分解され代謝物に変化し、尿に含まれて排せつされます1)3)。
影 響 呼吸によってエチレンオキシドを取り込んだ場合について、環境省の「化学物質の環境リスク初期評価」では、人の末梢神経などへの影響に基づいて、無毒性量等を0.43 mg/m3としています2)。病院などの作業現場ではこれを上まわる濃度がみられる場合がありますが4)、最近の測定における大気中の最大濃度はこの無毒性量等よりも十分に低いものでした。
なお、(独)製品評価技術基盤機構及び(財)化学物質評価研究機構の「化学物質の初期リスク評価書」では、ラットの実験におけるNOAELと大気中濃度の実測値を用いて、人の健康影響を評価しており、現時点では人の健康へ悪影響を及ぼすことはないと判断しています1)。
食物や飲み水を通じて口から取り込んだ場合について、人の健康への影響を評価できる情報は現在のところ報告されていませんが、これまでの測定では河川などからエチレンオキシドは検出されていません。
■生態影響
環境省の「化学物質の環境リスク初期評価」では、魚類の死亡を根拠として、水生生物に対するPNEC(予測無影響濃度)を0.084 mg/Lとしています2)。これまで得られた河川や海域の水中濃度はこのPNECよりも十分に低いため、この結果に基づけば水生生物への影響は小さいと考えられます。
なお、(独)製品評価技術基盤機構及び(財)化学物質評価研究機構の「化学物質の初期リスク評価書」でも、環境省と同じ魚類の死亡を指標として、河川水中濃度の推計値を用いて水生生物に対する影響について評価を行っており、現時点では環境中の水生生物へ悪影響を及ぼすことはないと判断しています1)。
性 状 |
無色透明の気体または液体 水に溶けやすい 揮発性物質 |
生産量5)
(2010年) |
国内生産量:約850,000トン 輸 入 量:約130トン 輸 出 量:約0.06トン |
排出・移動量
(2010年度 PRTRデータ) |
環境排出量:約380トン |
排出源の内訳[推計値](%) |
排出先の内訳[推計値](%) |
事業所(届出) |
64 |
大気 |
70 |
事業所(届出外) |
36 |
公共用水域 |
30 |
非対象業種 |
− |
土壌 |
− |
移動体 |
− |
埋立 |
− |
家庭 |
− |
(届出以外の排出量も含む) |
事業所(届出)における排出量:約240トン |
業種別構成比(上位5業種、%) |
精密機械器具製造業 |
63 |
化学工業 |
24 |
高等教育機関 |
3 |
その他の製造業 |
3 |
プラスチック製品製造業 |
3 |
事業所(届出)における移動量:約96トン |
移動先の内訳(%) |
廃棄物への移動 |
46 |
下水道への移動 |
54 |
業種別構成比(上位5業種、%) |
化学工業 |
72 |
精密機械器具製造業 |
27 |
高等教育機関 |
0 |
繊維工業 |
0 |
パルプ・紙・紙加工品製造業 |
0 |
PRTR対象 選定理由 |
発がん性,変異原性,吸入慢性毒性,作業環境許容濃度 |
環境データ |
大気
- 有害大気汚染物質モニタリング調査(一般環境大気):測定地点数149地点,検体数1788検体,平均濃度0.000083 mg/m3,最大濃度0.00028 mg/m3;[2009年度,環境省]6)
公共用水域
- 要調査項目存在状況調査:検出数0/50地点(検出下限値0.000098 mg/L);[2001年度,環境省]7)
- 化学物質環境実態調査:検出数0/27検体(検出下限値0.000098 mg/L);[2001年度,環境省]8)
底質
- 化学物質環境実態調査:検出数0/27検体(検出下限値0.0021 mg/kg);[2001年度,環境省]8)
生物(魚)
- 化学物質環境実態調査:検出数0/24検体(検出下限値0.0019 mg/kg);[2001年度,環境省]8)
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適用法令等 |
- 化学物質の審査及び製造等の規制に関する法律(化審法):優先評価化学物質
- 大気汚染防止法:有害大気汚染物質(優先取組物質),揮発性有機化合物(VOC)と測定される可能性がある物質
- 海洋汚染防止法:有害液体物質Y類(酸化エチレン及び酸化プロピレンの混合物,酸化エチレンの濃度が30重量%以下のものに限る)
- 労働安全衛生法:管理濃度1.8 mg/m3または1 ppm
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注)排出・移動量の項目中、「−」は排出量がないこと、「0」は排出量はあるが少ないことを表しています。
■引用・参考文献
■用途に関する参考文献