リスクコミュニケーションのための化学物質ファクトシート
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作成年: 2012年

アクリル酸及びその水溶性塩

主な物質 アクリル酸(別名:2-プロペン酸)、アクリル酸ナトリウム
管理番号 4
 
アクリル酸
PRTR政令番号 1-006(化管法施行令(2021年10月20日公布)の政令番号)
C A S 番 号 79-10-7
構 造 式 アクリル酸構造式
 
アクリル酸ナトリウム
PRTR政令番号 1-006(化管法施行令(2021年10月20日公布)の政令番号)
C A S 番 号 7446-81-3
構 造 式 アクリル酸ナトリウム構造式
  • アクリル酸は、紙おむつや生理用品などに加工されるポリマーの原料として使われるほか、アクリル酸エステルの原料として使われています。
  • アクリル酸の水溶性化合物にはアクリル酸ナトリウムなどがあります。アクリル酸ナトリウムは、医薬品の原料などに使われています。
  • 2010年度のPRTRデータでは、アクリル酸の環境中への排出量は約77トンでした。すべてが事業所から排出されたもので、大気中へ排出されたほか、河川や海などへも排出されました。

■用途

 アクリル酸は、水に溶けやすく常温で無色透明の液体で、揮発性物質です。酢酸に似た刺激臭があり、重合しやすい性質があります。
 アクリル酸の重合によってつくられたポリマーは、紙おむつや生理用品などに加工される吸水性ポリマー、水中の汚濁物質を水から分離させる高分子凝集剤、洗剤の洗浄力強化剤、複写機のトナーインキなどに使われています。この他、アクリル酸はアクリル酸エステルの原料としても使われています。アクリル酸エステルも重合しやすい性質があり、そのポリマーはアクリル繊維、塗料、粘着剤、接着剤などに使われています。
 また、アクリル酸化合物には多くの種類がありますが、PRTR制度においては、常温で中性の水に1%(質量比)以上溶ける物質を水溶性化合物としています。代表的なものとしてアクリル酸ナトリウムがあげられます。
 アクリル酸ナトリウムは、常温で白色の固体です。医薬品や化粧品増粘剤、粘着剤などの原料として使われています。

■排出・移動

 2010年度のPRTRデータによれば、アクリル酸は、わが国では1年間に約77トンが環境中へ排出されたと見積もられています。すべてが化学工業などの事業所から排出されたもので、大気中へ排出されたほか、河川や海などへも排出されました。この他、化学工業などの事業所から廃棄物として約500トン、下水道へ約3.9トンが移動されました。

■環境中での動き

 大気中へ排出されたアクリル酸は、化学反応によって分解され、1〜2日で半分の濃度になると計算されています1)。環境水中での動きについては報告がありませんが、化審法の分解度試験では、微生物分解はされやすいとされています1)。アクリル酸ナトリウムは、水中へ入った場合、加水分解されてアクリル酸とナトリウムイオンを生成すると報告されています2)

■健康影響

毒 性  マウスにアクリル酸を含む空気を90日間吸入させた実験では、局所的な嗅上皮(きゅうじょうひ)(鼻の奥にある臭いを感知する粘膜)の変性や体重増加の抑制などが認められ、この実験結果から求められる呼吸によって取り込んだ場合のNOAEL(無毒性量)は0.015 mg/m3でした1)。また、ラットにアクリル酸を3ヵ月間、飲み水に混ぜて与えた実験では、体重増加の抑制や摂水量の減少などが認められ、この実験結果から求められる口から取り込んだ場合のNOAELは、体重1 kg当たり1日40 mgでした1)。アクリル酸ナトリウムに関する知見は報告されていません。

体内への吸収と排出 人がアクリル酸を体内へ取り込む可能性があるのは、呼吸、飲み水や食物によると考えられます。体内に取り込まれた場合は、ラットやマウスの実験では、速やかに二酸化炭素に代謝され、主に呼気とともに吐き出されたと報告されています1)

影 響 呼吸によってアクリル酸を取り込んだ場合について、(独)製品評価技術基盤機構及び(財)化学物質評価研究機構の「化学物質の初期リスク評価書」では、マウスの実験におけるNOAELと大気中濃度の推計値を用いて、人の健康影響を評価しており、現時点では人の健康へ悪影響を及ぼすことはないと判断しています1)。また、口から取り込んだ場合については、ラットの実験におけるNOAELと河川水中濃度の推計値及び食物中濃度の実測値を用いて評価し、この場合も、現時点では人の健康へ悪影響を及ぼすことはないと判断しています1)

■生態影響

 アクリル酸について環境省の「化学物質の環境リスク初期評価」では、ミジンコの繁殖阻害を根拠として、水生生物に対するPNEC(予測無影響濃度)を0.038 mg/Lとしています3)。この環境リスク初期評価を行った時点では、河川や海域の水中濃度の測定データが得られておらず、水生生物への影響は評価できていませんでしたが、最近の測定における河川や海域の水中濃度は、このPNECよりも十分に低いものでした。アクリル酸ナトリウムについては、水生生物に対するPNECは算定されていません。なお、アクリル酸及びその水溶性塩は藻類に対する有害性からPRTR制度の対象物質に選定されていますが、上記のPNECはPRTR選定の際に根拠とされた知見を評価に加えたものではありません。
 なお、(独)製品評価技術基盤機構及び(財)化学物質評価研究機構の「化学物質の初期リスク評価書」では、藻類の生長阻害を指標として、河川水中濃度の推計値を用いて水生生物に対する影響について評価を行っており、環境中の水生生物へ悪影響を及ぼすことが示唆されるとして、アクリル酸を詳細な調査や評価などを行う必要がある候補物質であるとしています1)

性 状 アクリル酸:無色透明の液体 水に溶けやすい 揮発性物質
アクリル酸ナトリウム:白色の固体
生産量
(2010年)
国内生産量:公表データなし
排出・移動量
(2010年度
PRTRデータ)
環境排出量:約77トン 排出源の内訳[推計値](%) 排出先の内訳[推計値](%)
事業所(届出) 97 大気 69
事業所(届出外) 3 公共用水域 31
非対象業種 土壌
移動体 埋立
家庭 (届出以外の排出量も含む)
事業所(届出)における排出量:約74トン 業種別構成比(上位5業種、%)
化学工業 93
繊維工業 4
プラスチック製品製造業 2
倉庫業 1
電気機械器具製造業 0
事業所(届出)における移動量:約500トン 移動先の内訳(%)
廃棄物への移動 99 下水道への移動 1
業種別構成比(上位5業種、%)
化学工業 91
プラスチック製品製造業 7
電気機械器具製造業 1
自然科学研究所 1
繊維工業 0
PRTR対象
選定理由
アクリル酸:生態毒性(藻類)
アクリル酸ナトリウム:生態毒性(藻類)
環境データ

大気

  • 化学物質環境実態調査:検出数10/12検体,最大濃度0.00018 mg/m3;[2007年度,環境省] 4)

公共用水域

  • 化学物質環境実態調査:検出数8/30検体,最大濃度0.0029 mg/L;[2007年度,環境省] 4)
適用法令等

注)排出・移動量の項目中、「−」は排出量がないこと、「0」は排出量はあるが少ないことを表しています。

■引用・参考文献

■用途に関する参考文献