リスクコミュニケーションのための化学物質ファクトシート
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キシレン

別   名 ジメチルベンゼン、メチルトルエン、キシロール
PRTR政令番号 1-80 (旧政令番号:1-63)
C A S 番 号 1330-20-7、95-47-6(o-)、108-38-3(m-)、106-42-3(p-)
構 造 式
[O-キシレン] [m-キシレン] [p-キシレン]
O-キシレン構造式 m-キシレン構造式 p-キシレン構造式
  • キシレンは、ほとんどが他の化学物質の原料として使われているほか、油性塗料や接着剤などの溶剤としても使われています。
  • 2010年度のPRTRデータでは、環境中への排出量は約7万7千トンで、トルエンについで2番目に多い化学物質でした。事業所のほか、塗料や接着剤を使用する土木・建築工事現場、車の排気ガスなどに含まれて排出されたもので、ほとんどが大気中へ排出されました。

■用途

 キシレンは、常温で無色透明の液体で、揮発性物質です。o-キシレン、m-キシレン、p-キシレンという3つの異性体があります。
 キシレンのほとんどは、他の化学物質の原料として使われています。o-キシレンは、無水フタル酸の原料として使われています。m-キシレンは、可塑剤やポリエステル樹脂の原料であるイソフタル酸の原料として使われるほか、o-キシレンやp-キシレンに変化させて利用されます。p-キシレンは、テレフタル酸などの原料になります。
 この他、混合物キシレンと呼ばれる製品の形で、油性塗料、接着剤、印刷インキ、農薬などの溶剤やシンナーとして使われています。
 なお、灯油、軽油、ガソリンなどにも各異性体のキシレンが含まれています。

■排出・移動

 2010年度のPRTRデータによれば、わが国ではキシレンはトルエンについで2番目に排出量の多い化学物質で、1年間に約7万7千トンが環境中へ排出されたと見積もられています。輸送用機械器具製造業などの事業所、塗料や接着剤を使用する土木・建築工事現場のほか、自動車やオートバイなどの排気ガスに含まれて排出されたもので、ほとんどが大気中へ排出されました。また、家庭からも塗料や接着剤、殺虫剤などの使用に伴って排出されました。この他、化学工業などの事業所から廃棄物として約9,100トン、下水道へ約13トンが移動されました。

■環境中での動き

 大気中へ排出されたキシレンは、化学反応によって容易に分解され、0.6〜1.2日間で半分の濃度になると計算されています1)。水中に入った場合は、主に大気中への揮発によって失われ、数日以内に濃度は半分になるとされていますが2)、土壌の深い層や地下水に侵入すると、容易には揮発しません。

■健康影響

毒 性 高濃度のキシレンは、眼やのどなどに対する刺激性や、中枢神経へ影響を与えることが報告されています1)シックハウス症候群との関連が疑われていることから、ラットの中枢神経系への影響に基づいて、厚生労働省ではキシレンの室内空気濃度の指針値を0.87 mg/m3 (0.2 ppm) と定めています3)
 ラットにキシレンを103週間、口から与えた実験では、体重増加の抑制と死亡率の増加が認められ、この実験から求められる口から取り込んだ場合のNOAEL(無毒性量)は体重1 kg当たり1日180 mgでした1)。この実験結果から、TDI(耐容一日摂取量)は体重1 kg当たり1日0.0179 mgと算出され、これに基づいて水質要監視項目の指針値が設定されています4)

体内への吸収と排出 人がキシレンを体内に取り込む可能性があるのは、呼吸や飲み水によると考えられます。体内に取り込まれた場合は、約95%が代謝されて尿に含まれて排せつされ、約5%未満が呼気とともに吐き出されます4)。また、キシレンは胎盤経由で母動物から胎子へ移行することが報告されています5)

影 響 国土交通省による新築1年以内の住宅を対象とした実態調査によると、2005年度には室内空気濃度の指針値を超えた例はありませんでした6)。屋外大気についても、最近の測定における濃度は室内空気濃度の指針値よりも低いものでした。
 また、最近の測定では、河川などから水質要監視項目の指針値を超える濃度のキシレンは検出されていませんが、ガソリンによる地下水汚染現場では指針値を超える濃度が検出された事例が報告されています7)。このような汚染された地下水を長期間飲用するような場合を除いて、飲み水から取り込むことによる人の健康への影響は小さいと考えられます。
 この他、(独)産業技術総合研究所では、キシレンについて詳細リスク評価を行っています8)

■生態影響

 環境省の「化学物質の環境リスク初期評価」では、魚類の死亡を根拠として、水生生物に対するPNEC(予測無影響濃度)を0.0082 mg/Lとしています1)。これまで得られた河川や海域の水中濃度はこのPNECよりも十分に低いため、この結果に基づけば水生生物への影響は小さいと考えられます。
 なお、(独)製品評価技術基盤機構及び(財)化学物質評価研究機構の「化学物質の初期リスク評価書」では、ミジンコの繁殖阻害を指標として、河川水中濃度の実測値を用いて水生生物に対する影響について評価を行っており、現時点では環境中の水生生物へ悪影響を及ぼすことはないと判断しています9)

性 状 無色透明の液体  揮発性物質
生産量10)
(2010年)
キシレン全体:国内生産量:約5,900,000トン,輸入量:約0.63トン,輸出量:約570,000トン
 o-キシレン:国内生産量:約120,000トン,輸出量:約47,000トン
 m-キシレン:輸入量:約11,000トン,輸出量:約5,000トン
 p-キシレン:国内生産量:約3,200,000トン,輸入量:約9,900トン,
  輸出量:約2,300,000トン
排出・移動量
(2010年度
PRTRデータ)
環境排出量:約77,000トン 排出源の内訳[推計値](%) 排出先の内訳[推計値](%)
事業所(届出) 41 大気 97
事業所(届出外) 8 公共用水域 1
非対象業種 26 土壌 2
移動体 23 埋立 0
家庭 1 (届出以外の排出量も含む)
事業所(届出)における排出量:約31,000トン 業種別構成比(上位5業種、%)
輸送用機械器具製造業 49
一般機械器具製造業 12
金属製品製造業 11
電気機械器具製造業 5
化学工業 4
事業所(届出)における移動量:約9,100トン 移動先の内訳(%)
廃棄物への移動 100 下水道への移動 0
業種別構成比(上位5業種、%)
化学工業 54
輸送用機械器具製造業 15
金属製品製造業 7
電気機械器具製造業 5
一般機械器具製造業 5
PRTR対象
選定理由
生態毒性(キシレン:魚類,o-キシレン:藻類,m-キシレン:甲殻類,p-キシレン:魚類)
環境データ

大気

  • 有害大気汚染物質モニタリング調査(一般環境大気):キシレン類;測定地点数63地点,検体数731検体,最小濃度0.00005 mg/m3最大濃度0.015 mg/m3o-キシレン;測定地点数11地点,検体数132検体,最小濃度 0.000048 mg/m3,最大濃度0.0024 mg/m3m-キシレン/ p-キシレン;測定地点数11地点,検体数132検体,最小濃度0.00011 mg/m3,最大濃度0.0069 mg/m3;[2009年度,環境省ほか]11)

室内空気

  • 室内空気中の化学物質濃度の実態調査:指針値超過数;0/1181件;[2005年度,国土交通省]6)

公共用水域

  • 公共用水域水質測定(要監視項目):指針値超過数0/940地点(報告下限値0.04 mg/L);[2010年度,環境省]12)
  • 化学物質環境実態調査:
    o-キシレン;検出数12/137検体,最大濃度0.0012 mg/L;[1986年度,環境省]13)
    m-キシレン;検出数15/126検体,最大濃度0.0012 mg/L;[1986年度,環境省]13)
    p-キシレン;検出数4/122検体,最大濃度0.00048 mg/L;[1986年度,環境省]13)

地下水

  • 地下水質測定(要監視項目):指針値超過数0/375地点(報告下限値0.04 mg/L);[2009年度,環境省]14)

底質

  • 化学物質環境実態調査:
    o-キシレン;検出数24/111検体,最大濃度0.007 mg/kg;[1986年度,環境省]13)
    m-キシレン;検出数33/118検体,最大濃度0.0150 mg/kg;[1986年度,環境省]13)
    p-キシレン;検出数12/105検体,最大濃度0.0038 mg/kg;[1986年度,環境省]13)

生物(魚)

  • 化学物質環境実態調査:
    o-キシレン;検出数41/137検体,最大濃度0.005 mg/kg;[1986年度,環境省]13)
    m-キシレン;検出数45/124検体,最大濃度0.0092 mg/kg;[1986年度,環境省]13)
    p-キシレン;検出数28/127検体,最大濃度0.003 mg/kg;[1986年度,環境省]13)
適用法令等
  • 大気汚染防止法:揮発性有機化合物(VOC)として測定される可能性がある物質
  • 室内空気汚染に係るガイドライン:室内空気濃度指針値0.87 mg/m3(0.2 ppm)
  • 住宅の品質確保の促進等に関する法律:住宅性能表示制度における室内空気中濃度の特定測定物質
  • 水道法:要検討項目(目標値0.4 mg/L)
  • 水質要監視項目指針値:0.4 mg/L以下
  • 悪臭防止法:特定悪臭物質規制基準4.3〜21.5 mg/m3(1〜5 ppm)
  • 海洋汚染防止法:有害液体物質Y類
  • 労働安全衛生法:管理濃度50 ppm(20℃換算で217 mg/m3

注)排出・移動量の項目中、「−」は排出量がないこと、「0」は排出量はあるが少ないことを表しています。

■引用・参考文献

■用途に関する参考文献