リスクコミュニケーションのための化学物質ファクトシート
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カドミウム及びその化合物

主な物質:カドミウム、塩化カドミウム、酸化カドミウム、硫酸カドミウム

カドミウム
PRTR政令番号:1-75 (旧政令番号:1-60)  CAS番号:7440-43-9  組成式:カドミウム組成式

塩化カドミウム
PRTR政令番号:1-75 (旧政令番号:1-60)  CAS番号:10108-64-2  組成式:塩化カドミウム組成式

酸化カドミウム
PRTR政令番号:1-75 (旧政令番号:1-60)  CAS番号:1306-19-0  組成式:酸化カドミウム組成式

硫酸カドミウム
PRTR政令番号:1-75 (旧政令番号:1-60)  CAS番号:10124-36-4  組成式:硫酸カドミウム組成式

  • カドミウムは、ほとんどがニッケル・カドミウム蓄電池に使われています。
  • カドミウムの化合物には、塩化カドミウムなどがあり、メッキの原料などに使われています。
  • 2010年度のPRTRデータでは、環境中への排出量は約120トンでした。すべてが事業所から排出されたもので、ほとんどが事業所内において埋立処分されました。

■用途

 カドミウムは、常温で銀白色の柔らかい金属で、地球の地殻に広く分布しています。高純度の鉱石はありませんが、一定の濃度で亜鉛鉱石に含まれていることから、通常は亜鉛を精錬する際に副産物として生産されています。
 カドミウムは、人体に長期間にわたって取り込まれると、障害を生じさせることが知られています。カドミウム中毒の事例として、日本では、鉱山から排出されたカドミウムに汚染された地域で発生したイタイイタイ病があります。
 カドミウムは、メッキの原料をはじめ、合金の成分、塩化ビニル樹脂の安定剤やプラスチック・ガラス製品の顔料など、さまざまな用途に使われてきましたが、現在は、需要のほとんどはニッケル・カドミウム蓄電池が占めるようになっています。
 カドミウムの化合物には、塩化カドミウム、酸化カドミウム、硫酸カドミウムなどがあります。
 塩化カドミウムは、常温で無色の固体で、水に溶けやすく、メッキや顔料の原料として使われています。
 酸化カドミウムは、常温で茶色の固体です。メッキの原料として使われています。
 硫酸カドミウムは、常温で白色の固体で、水に溶けやすく、分析用試薬、カドミウム電池やメッキの原料に使われています。
 なお、カドミウムは、米、野菜、魚介類など食品中に広く含まれるほか、たばこの煙にも含まれています。

■排出・移動

 2010年度のPRTRデータによれば、わが国では1年間に約120トンが環境中へ排出されたと見積もられています。すべてが非鉄金属製造業などの事業所から排出されたもので、ほとんどが事業所内において埋立処分されました。この他、鉄鋼業や非鉄金属製造業などの事業所から廃棄物として約68トン、下水道へ約0.002トンが移動されました。

■環境中での動き

 カドミウムは地殻の表層部には重量比で0.00005 %程度存在し、クラーク数で62番目に多い元素です。カドミウム及びその化合物の環境中への排出は、人為的な排出のほか、カドミウムを含む岩石の風化や火山の噴火など、天然由来によるものが考えられます1)
 環境中へ排出されたカドミウムは、大部分が土壌粒子や水底の泥などに吸着され、一部が水に溶けると考えられます1)。土壌中のカドミウムは植物に吸収されますが、植物への蓄積に影響を及ぼす要素は、土壌のカドミウム濃度とpHとされています1)。土壌のpHが高いと土壌粒子へのカドミウムの吸着性が大きくなり、その結果、植物にカドミウムが吸収されにくくなるとされています1)。また、カドミウムは、土壌中の酸素が少ない状態(還元状態)では、硫黄と結合して水に溶けにくくなります2)。このため、水稲がカドミウムを吸収・蓄積する時期(出穂3週間前から収穫10日前まで)に、水田の土壌表面に空気が触れないように水を張った状態(還元状態)を保つと、土壌中のカドミウムは水に溶けにくくなり、米のカドミウム吸収が低減することが確認されています2)
 大気中へ排出された場合は、大気中の微粒子などに吸着して長距離を移動し、大気中の滞留時間(地表に沈降するまでの日数)は1〜10日とされています3)。地表へは降雨などによって降下します3)

■健康影響

毒 性 カドミウムと塩化カドミウムの変異原性については、人とマウスの染色体異常試験で陽性を示したと報告されています4)。発がん性に関しては、実験動物によって多くの研究がなされ、ラットにカドミウムを含む空気を吸入させたり、注射や口からカドミウムを投与した実験で、精巣、肺、前立腺、造血系などに腫瘍の発生が報告されています1)
 国際がん研究機関(IARC)はカドミウム及びその化合物をグループ1(人に対して発がん性がある)に分類していますが、わが国の食品安全委員会は、一般環境に居住する人において、長期にわたる低濃度のカドミウムの取り込みが発がんを発症させると結論することは困難であり、発がんに関する知見について引き続き注意を払っていく必要があるとしています1)
 カドミウムに関する疫学調査は世界各国で行われており、口から長期間にわたってカドミウムを取り込むと、近位尿細管機能障害(腎臓の組織の一部である近位尿細管の再吸収機能が影響を受け、低分子量たんぱく質の尿中排せつ量が増加する障害)を主な症状とする腎機能障害が生じることが知られています1)
 わが国では、日本人を対象とした2つの疫学調査のデータを根拠として、カドミウムのTWI(耐容週間摂取量)が設定されています1)
 1つめは、米のカドミウム濃度が高い地域と低い地域の住民を対象とした調査です1)。この調査においては1週間のカドミウム摂取量が体重1 kg当たり0.0144 mg以下では、近位尿細管機能障害の発生頻度に地域差はありませんでした1)
 2つめは、低〜中程度のカドミウム汚染地域と非汚染地域で、農業に従事する女性を対象とした調査です1)。この調査では、調査対象者のうち17.9〜29.8%の人は、1週間のカドミウム摂取量が体重1 kg当たり0.007 mgを超えていることが確認されましたが、0.007 mgを超えない人に比べて、近位尿細管機能障害の発生頻度に差はありませんでした1)
 これらの疫学調査の結果から、2010年にわが国の食品安全委員会は、カドミウムのTWIを1週間に体重1 kg当たり0.007 mgと評価しました1)
 この評価を受けて水道水質基準は2010年に、従来の0.01 mg/L以下から0.003 mg/Lに改正され5)、水質環境基準と地下水環境基準も2011年に0.003 mg/Lに改正されました6)。また、農用地に係る土壌環境基準についても2010年に、食料を生産する機能を保全する観点に基づき「米1 kgにつき0.4 mg以下であること」と改正されました7)
 なお、これまで、国連食糧農業機関(FAO)と世界保健機関(WHO)の合同食品添加物専門家会議(JECFA)では、各国のカドミウムばく露状況から、腎皮質のカドミウム蓄積量が200 mg/kgを超えると腎機能の障害がおこる可能性があるとして、PTWI(暫定耐容週間摂取量)を1週間に体重1 kg当たり0.007 mgと設定していました1)8)。このPTWIについて、2010年にJECFAは再評価を行い、カドミウムは体内での半減期が長いことから、週単位ではなく1ヵ月間の耐容摂取を評価すべきであるとしてPTWIを取り下げ、1ヵ月間に体重1 kg当たり0.025 mgとするPTMI(暫定耐容月間摂取量)を設定しました8)
 カドミウムを呼吸によって取り込むことに関して、WHOでは、発がん性に基づいて、農業活動が行われていない都市部や工業地帯では大気中濃度が0.00001〜0.00002 mg/m3であれば許容できるが、農業地帯では0.000001〜0.000005 mg/m3の水準を超えるべきではないとして9)、欧州の大気質ガイドラインを0.000005 mg/m3と設定しています10)
 このほか、生殖・発生毒性に関する動物実験の結果も報告されています。ラットやマウスにカドミウムを餌に混ぜて与えた実験では、同腹子数(1回の分娩で生まれた子の数)の減少、胎子の死亡や胎子の成長阻害及び奇形などがみられ、この実験結果から求められる口から取り込んだ場合のLOAEL(最小毒性量)は体重1 kg当たり1日0.0069 mgでした4)

体内への吸収と排出 人がカドミウムを体内に取り込む可能性があるのは、食物や飲み水、呼吸などによると考えられます。体内に取り込まれた場合は、腸管で吸収され、腎皮質に吸収された量の3分の1が、肝と筋肉にそれぞれ約4分の1ずつが蓄積するとされています1)。脳、脂肪組織、骨への蓄積量は非常に少ないとされています1)。蓄積されたカドミウムが半分の濃度になる期間は長いとされており、腎臓における半減期は12〜23年、肝臓における半減期は約8年、非喫煙者の腎皮質における半減期は20〜50年と推定する算出結果が報告されています1)。日本人を対象にした排せつに関する研究では、口から取り込まれたカドミウム量の92〜98%が便に含まれて排せつされています1)
 なお、たばこ1本には約0.001〜0.002 mgのカドミウムが含まれているとされています1)。その約10%が肺に吸入され、さらにその約50%が体内に吸収されるとされています1)

影 響 カドミウムは自然界に広く分布し、ほとんどの食品に天然由来のカドミウムが多少なりとも含まれています。わが国では各地に鉱床や廃鉱山がたくさん存在していることから、米に含まれる濃度が比較的高く、米からカドミウムを取り込む割合が食品全体の約半分を占めるとされています1)
 米に含まれるカドミウムの濃度について、食品衛生法に基づく基準は1970年に「1.0 ppm未満」と定められて以降変更されていませんでしたが、上記の食品安全委員会の再評価を受けて2010年に「玄米及び精米で0.4 ppm(0.4 mg/kg)以下」と改正されました11)。ただし、1970年以降も0.4以上1.0 ppm 未満の米は国の指導により非食用に処理されており、実質的には0.4 ppm 以上の米は食用として流通していなかったと考えられます1)
 2010年国内産米のカドミウム含有調査では、197点のうち196点が新しい基準を下回っていました。なお、基準超過した米は焼却処分されたため、流通していません12)。こうしたことに加えて、日本人の食生活の変化によって1人当たりの米消費量が1962年のピーク時に比べて半減しており、日本人のカドミウムの摂取量は減少していると考えられます1)
 2007年の日本人の食品からのカドミウム摂取量は、平均体重53.3 kgで換算して、1週間で体重1 kg当たり0.0028 mgで、これは食品安全委員会によるカドミウムのTWIの40%にあたります1)。また、水道水からは水道水質基準を超える濃度のカドミウムは検出されていませんが、河川からまれに環境基準を超える濃度が検出されています。
 大気中からは、最大で0.0000078 mg/m3の濃度のカドミウムが検出されています。
 なお、(独)産業技術総合研究所では、カドミウムについて詳細リスク評価を行っています13)

■生態影響

 水生生物保全の観点から環境基準の設定を検討した際に、カドミウムの水質目標値として、河川・湖沼のイワナ・サケマス域では0.0001 mg/L、河川・湖沼のイワナ・サケマス域のうち繁殖場・幼稚仔魚の生育場では0.00003 mg/L、河川・湖沼のコイ・フナ域では繁殖場・幼稚仔魚の生育場を含め0.0002 mg/L、海域では0.01 mg/L、繁殖場・幼稚仔魚の生育場の海域では0.007 mg/Lが算出されています14)。この目標値を超える濃度のカドミウムが水域から検出されています14)
 なお、この目標値は感受性の高い生物個体の保護までは考慮せず、集団の維持を可能とするレベルで設定されたものです14)。カドミウムの目標値は検出下限値より小さく、目標値の超過状況を把握することが困難であるため、まずは測定法を確立することが必要であるとして、カドミウムは、水生生物保全の観点からの環境基準項目や要監視項目にはされていません14)
 (独)産業技術総合研究所では、カドミウムについて詳細リスク評価を行っています13)

性 状 カドミウム:銀白色の固体
塩化カドミウム:無色の固体 水に溶けやすい
酸化カドミウム:茶色の固体
硫酸カドミウム:白色の固体 水に溶けやすい
生産量15)
(2010年)
【カドミウム】
 国内生産量:約2,100トン(金属カドミウム)
 輸 入 量:約260トン(塊、くず及び粉)
 輸 出 量:約860トン(塊、くず及び粉)
【塩化カドミウム】:公表データなし
【酸化カドミウム】:公表データなし
【硫酸カドミウム】:公表データなし
排出・移動量
(2010年度
PRTRデータ)
環境排出量:約120トン 排出源の内訳[推計値](%) 排出先の内訳[推計値](%)
事業所(届出) 100 大気 1
事業所(届出外) 0 公共用水域 2
非対象業種 土壌
移動体 埋立 97
家庭 (届出以外の排出量も含む)
事業所(届出)における排出量:約120トン 業種別構成比(上位5業種、%)
非鉄金属製造業 98
下水道業 1
金属製品製造業 0
産業廃棄物処分業(特別管理産業廃棄物処分業を含む。) 0
金属鉱業 0
事業所(届出)における移動量:約68トン 移動先の内訳(%)
廃棄物への移動 100 下水道への移動 0
業種別構成比(上位5業種、%)
鉄鋼業 64
非鉄金属製造業 30
化学工業 2
一般廃棄物処理業(ごみ処分業に限る。) 1
金属製品製造業 1
PRTR対象
選定理由
発がん性,変異原性,生殖・発生毒性,経口慢性毒性,吸入慢性毒性,作業環境許容濃度,生態毒性(藻類,魚類)
環境データ

大気

  • 有害大気汚染物質モニタリング調査(一般環境大気):測定値点数34地点,検体数402検体,最小濃度0.000000004 mg/m3,最大濃度0.0000078 mg/m3;[2009年度,環境省]16)

水道水

  • 原水・浄水水質試験:水道水質基準超過数;原水0/5210地点,浄水0/5374地点;[2009年度,日本水道協会] 17)18)

公共用水域

  • 公共用水域水質測定:環境基準超過数1/4289地点,最大濃度0.016 mg/L;[2010年度,環境省]19)
  • 要調査項目存在状況調査:検出数2/44地点,最大濃度0.0003 mg/L;[2010年度,環境省] 20)

地下水

  • 地下水質測定:環境基準超過数;概況調査0/3185本,汚染井戸周辺地区調査0/24本,継続監視調査0/79本;[2009年度,環境省]21)
  • 要調査項目存在状況調査:検出数0/3地点(定量下限値0.0001 mg/L);[2010年度,環境省]20)

土壌

  • 土壌汚染調査:環境基準超過数(1991〜2009年度累計)120事例/10215調査事例;[2009年度,環境省]22)

生物(鳥)

  • 化学物質環境実態調査(カドミウムとして測定):検出数;8/8検体,最大濃度0.02 mg/kg;[1980年度,環境省] 23)

生物(貝)

  • 化学物質環境実態調査(カドミウムとして測定):検出数;15/15検体,最大濃度0.01 mg/kg;[1979年度,環境省] 23)

生物(魚)

  • 化学物質環境実態調査(カドミウムとして測定):検出数;0/40検体(検出下限値0.01 mg/kg);[1979年度,環境省] 23)
適用法令等
  • 水道法:水道水質基準値0.003 mg/L以下
  • 水質環境基準(健康項目): 0.003 mg/L以下
  • 地下水環境基準:0.003 mg/L以下
  • 水質汚濁防止法:有害物質,排水基準0.1 mg/L
  • 土壌環境基準:0.01 mg/L以下,農用地においては米1 kgにつき0.4 mg以下
  • 土壌汚染対策法:特定有害物質,土壌溶出量基準0.01 mg/L以下,土壌含有量基準150 mg/kg以下
  • 廃棄物処理法:特定有害産業廃棄物
  • 金属等を含む産業廃棄物に係る判定基準:0.3 mg/L以下
  • 食品衛生法:規格基準
    米(玄米及び精米);0.4 mg/kg以下
    清涼飲料水(ミネラルウォーター類を含む);原水0.01 mg/L以下,製品は検出してはならない
    粉末清涼飲料;検出してはならない
  • 労働安全衛生法:管理濃度0.05 mg/m3(カドミウムとして)

注)排出・移動量の項目中、「−」は排出量がないこと、「0」は排出量はあるが少ないことを表しています。

■引用・参考文献

■用途に関する参考文献